第3話
数週間たって信介はこの世界のことが少しずつ分かってきた。わかったことを順にあげていくと
①人間がしていたことはすべて昆虫が代わって行っているということ。
アリは主に中小企業に勤めていて、彼らの家は大体団地でアパート住まいだ。親は女王アリではなく各家庭がサザエさん家庭のような核家族をいとなんでいる。バッタやコオロギはその脚力を活かして郵便配達。工事現場では頑丈なカブトムシやクワガタが働いているらしい。しかし信介はハチのほうが建築がうまいし飛べんで作業できるのでは、と思った。
②全世界もれなく昆虫化しているということ。
信介の家庭ももれなく全員コオロギ化していた。コオロギ科にコオロギ化していた。彼の家族はオスの顔が平たい特徴を持つハラオカメコオロギという種だった。ハラオカメコオロギはコオロギの中でも飛べる種なのだが大人になってしばらくすると飛べなくなってしまうんだとか。なんともむなしい生き物に変わってしまったと信介はなげいた。虫ならもうちょっとトノサマバッタとかカブトムシとかもっとカッコイイやつがよかった。だが、信介が最もなりたいと思った虫は”アリ”だった。
③変形の仕方が都合がいいということ。
この世界ではみんな人から虫にすげ代わっているため都合上、サイズが全員同じなのだ。先日の朝会で担任の先生が生徒の横に並んでいるときちょうど彼のお気に入りの先生が2人続けてならんでいたのだがアリの竹内先生とカブトムシの鈴木先生では明らかにアリの竹内先生のほうがかっこいいのだ。頭の触角がゆらゆらしていて運動慣れした立ち振る舞いと三対の腕組みが超COOLだった。いつもは小さくて木の根の周りをチョコチョコと群れを成しているアリが他の昆虫と同じサイズで一匹になったとたんこんなにも頼もしくなるとはと信介はコオロギながらに感じた。
とこんなかんじに信介は情報を整理した。ちなみにこの世界ではみんな昔から昆虫だったという自覚があるのでので信介のように人間世界を覚えているものはいない。でもって肝心の人間は未確認生物になっていた。
昆虫ずかん @otonomame
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