第7話 闇に潜む悪意

 ひまわり第二中学校、普段は静かな学校が突如として大きな衝撃を受けることになった。あの日、学校の廊下で起きた一件が、すべてを変えてしまったのだ。


 山県亮太が劇団で新たな一歩を踏み出し、イジメの苦しみから解放されつつあったその日、学校では恐ろしい事件が起こった。


 放課後の静かな校舎の中で、突如として教室から悲鳴が聞こえた。その声は、まるで命を奪われる寸前の絶叫のようだった。


 すぐに駆けつけた教師たちが目にしたのは、血だまりの中で倒れた一人の生徒の姿だった。その生徒は、クラスの中でも目立つことなく、孤立していた**佐藤誠二さとうせいじ**という男子生徒だった。彼の胸には、深い刺し傷が残されており、すでに息絶えていた。


 誠二は、山県にとっても面識のある生徒だった。彼はどちらかと言えば、周囲から無視されることが多かったが、暴力的な一面を見せることもなく、学校内でも特にトラブルの原因となることはなかった。しかし、彼が無惨に殺される理由は、誰にも分からなかった。


 警察はすぐに学校に駆けつけ、捜査を始めた。誰が、何のために誠二を殺したのか。事件の原因は依然として不明だったが、山県は、その殺人事件が自分の周りに起きたことに、何かしらの恐ろしい繋がりを感じていた。


 事件発生から数日が経過したが、真相は依然として明かされなかった。学校では緊張感が漂い、教師たちは生徒たちに対して一層厳しく監視の目を向けるようになった。その中で、山県は自分がその事件に何か関わっているのではないかと恐れを抱いていた。誠二が殺される前日、何度か目が合ったことがあったのだ。


 山県はその記憶を辿りながら、あの日の出来事を思い出そうとした。しかし、何も思い出せない。ただ、誠二が最後に見せた目つきが不安げで、何か言いたげな表情だったことだけが、強烈に胸に残っていた。


 その頃、山県はイジメを受けていた当時の自分と誠二を重ね合わせていた。彼もまた、周囲から疎外され、孤独な時間を過ごしていたのだろうか。そして、あの時、誠二が抱えていた苦しみを感じ取れなかった自分を悔い、恐れを感じていた。


 やがて、学校の調査が進むにつれ、事件に関与していると疑われる人物が浮かび上がった。その人物は、山県が以前イジメを受けていた佐藤ではなく、誠二とよく一緒に行動していた**高瀬裕也**という男子生徒だった。


 高瀬は、周囲からは「おとなしくて優等生」として知られていたが、誠二と親しくしていたことから、何かしらの感情的なつながりがあったのではないかと警察は疑った。しかし、高瀬本人は、事件との関与を強く否定し、無実を主張していた。


 山県はその噂を聞き、胸の奥に重い何かを感じていた。誠二の死が一体何を意味しているのか、そしてそれが自分の過去にどう繋がるのか、答えが見えないままでいた。


 事件から数日後、山県はひまわり座の稽古が終わった後、劇団の仲間たちと共に街を歩いていると、ふと一人の少年が目の前に現れた。それは、高瀬裕也だった。


「山県くん、ちょっといいか?」


 高瀬の表情はどこか疲れた様子だった。彼はあまりにも静かに、しかし真剣な面持ちで山県に声をかけた。


「実は、僕が誠二を殺したんじゃないかって、みんなに思われているんだ。でも、それは違うんだ」


 山県は一瞬驚き、その場で立ち止まった。


「でも、どうして君が?」


「誠二は、僕にとっては兄のような存在だった。だけど、僕らの関係はだんだん変わっていった。誠二が自分の秘密を隠し続けていることを、僕は知っていた。あの日、誠二は突然、何かに追い詰められているような顔をしていたんだ」


 高瀬の声は震えていた。彼は続けて言った。


「誠二が、僕に言ったんだ。『僕、やってしまったんだ』って。どうしてもそのことを話さなきゃいけないって…でも、何も聞くことができなかった。僕は誠二が怖くて、何も言えなかった。彼が最後に言おうとしたこと、それが一体何だったのか、ずっと気になっていた。でも、もう遅かった」


 山県はその言葉を聞いて、胸が痛んだ。高瀬が言っていることが真実なら、誠二には何か隠された秘密があったのかもしれない。しかし、それが何なのか、誰も知らなかった。


「僕が知っていることは、誠二が何かを抱えていたってことだけだ。そして、それをどうしても誰にも話せなかった。それが、彼を追い詰めたんだ…」


 高瀬は、泣きながら告白した。山県は彼の肩を支えながら、黙って聞いていた。


 事件からさらに数日が経ち、警察はついに誠二の持っていた秘密を掴んだ。誠二が実は、家庭内での虐待を受けていたことが明らかになった。誠二の父親が彼を精神的にも肉体的にも虐待し、その恐怖に押しつぶされていたというのだ。


 そして、誠二が抱えていた最も恐ろしい秘密は、彼がその虐待から逃れるために、ある犯罪に手を染めていたことだった。それは、学校内で起きた無数の小さな盗みや、他の生徒たちへの脅迫だった。


 誠二がそのことを暴露しようとした瞬間、彼の命を奪ったのは、実は誠二自身の家族だった。彼の父親が息子を黙らせるために、ついに手を出したのだ。


 この事実が明らかになり、山県は深い悲しみに包まれた。誠二が死に至った理由を理解したものの、彼の死に何もできなかった自分を責めずにはいられなかった。


 山県は、誠二の死を経て、再び自分を見つめ直すこととなった。彼は劇団での活動を通じて、過去の苦しみや悲しみを乗り越えつつあった。しかし、誠二の死という衝撃的な事件が、彼に一層強く伝えたことがあった。それは、人々が抱える心の闇を見逃してはいけないということだった。



 山県は、これからも舞台を通じて、社会の中で見過ごされている声に耳を傾け、人々が抱える痛みに向き合っていこうと決意した。


 そして、ひまわり座の仲間たちと共に、未来を照らす光となるべく歩


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