第5話 闇の中で

 真琴が劇団の再生を目指して奮闘する中で、ひまわり座の周囲には新たな影が忍び寄っていた。劇団が崩壊しつつある中で、ひとりの劇団員、奈良裕二(劇団員)は、劇団を離れ、ある日突然、ボールペン工場に派遣されることになった。奈良は、ひまわり座の内情に疎外感を抱いており、劇団の混乱から距離を置くため、派遣の仕事を選んだのだ。


 だが、奈良の新しい職場で待っていたのは、想像を絶するほどの理不尽な状況だった。


 奈良が配属されたボールペン工場は、規模こそ小さかったが、内部には暴力的な上司、奈良の上司である奈良(同名)がいた。この奈良という人物は、典型的なパワハラ上司で、彼の手法は陰湿かつ巧妙であった。彼は部下を精神的に追い込み、恐怖で支配することで、工場内の秩序を保っていた。


 奈良は、仕事の進捗が遅れたことを理由に奈良(裕二)を執拗に罵倒し、心身ともに追い込んでいった。毎日のように暴言を浴びせられ、終わらない無理な仕事を強いられ、奈良は次第に心の中で劇団のことを思い出し、再び舞台に戻りたいという気持ちと、目の前の地獄のような現実に挟まれ、次第に壊れていった。


 奈良(裕二)は、その日も工場の一角でひとり黙々と作業していた。厳しい納期と徹夜続きで、身体も心も疲弊しきっていた。突然、奈良(上司)が背後から現れ、冷たい声で命じる。


「おい、そこの作業はどうした? お前、俺に言われた通りにやってるのか? もっとスピードを上げろ」


 奈良(裕二)は息を呑んだ。何も言えず、ただひたすら作業を続けるしかなかった。言葉を返すことができたのは、恐怖で体が動かないときだけだった。上司の奈良はまるで猛獣のように、部下たちを監視し、あらゆるミスを許さない。小さなミスさえも暴言と罵倒の対象となり、その日はいつも通り、奈良(裕二)は逃げ場のない地獄のような状況に突入していった。


「お前、そんな顔をしていると本当に怒るぞ」


 その一言が奈良(裕二)の心を凍りつかせた。上司は彼を人間として扱っていなかった。精神的にも追い詰められ、奈良(裕二)は毎日、仕事が終わった後に劇団のことを思い出し、あの頃の希望を抱いていた自分を悔い、さらに深い孤独に沈んでいった。



 一方、ひまわり座では、真琴が劇団の立て直しに奔走していたが、奈良(裕二)の変化を感じ取る者は少なかった。彼の帰りが遅くなり、顔色も悪くなる一方だった。しかし、劇団内の問題にかかりきりだった真琴には、その心の葛藤を理解する余裕がなかった。


 だが、ある日、ひまわり座の稽古場に届いた一通の手紙が、劇団に新たな不安をもたらす。手紙には、奈良(裕二)が職場で経験しているパワハラの実態が書かれていた。


「あなたたちは知らないかもしれませんが、奈良は工場でひどい目に遭っています。上司が暴言を吐き、精神的に追い込まれています。このままでは彼が壊れてしまう」


 真琴はその手紙を読み、心を痛めた。だが、どうすることもできなかった。劇団内での争いが激化し、奈良(裕二)を助ける手段が見つからないまま、時間だけが過ぎていった。


 奈良(裕二)は、次第に身体的にも精神的にも限界を迎えていった。ある日、奈良(上司)が彼にまたもや暴言を吐いた後、激しく怒鳴りつける。奈良(裕二)はもう耐えられなかった。


「こんなこと、もうやってられない…」


 彼はついに、暴力的な上司に立ち向かう決意を固める。しかし、何かをしようとしても、その背後に常に監視の目があることを感じていた。奈良(上司)はどこまでも巧妙で、彼の恐怖を煽り、全ての反抗を押し込める術を持っていた。


 その夜、奈良(裕二)はひとりで工場を抜け出し、劇団の仲間たちに手紙を残す。


「俺を助けてくれ。あの場所にいる限り、俺はもう壊れてしまう」


 真琴は、その手紙を受け取り、奈良(裕二)を救うために動き出す。劇団のメンバーとともに、奈良が耐え忍んでいる地獄を突き止め、彼を救い出す計画を立てる。しかし、その間にも劇団内では吉田の影がますます深くなる中、奈良(裕二)の状況はますます厳しくなっていった。


 ボールペン工場では、奈良(裕二)がついに限界を迎え、その精神が崩壊する寸前まで追い詰められていた。




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