第12話 チャンス

時計は帰宅ラッシュの17時頃を指していた。ラッシュとはいえ田舎である。一部の混雑した道路さえ過ぎてしまえばあとは渋滞もなく進んでいく。


回り道をした方が早いな。


ハンドルを切り裏道へ。

家事の放送が鳴ったのは5分前。もしかしたらまだ家事が続いているのかもしれない。

無事を祈る焦りと、遂に能力開花のきっかけが出来る事との複雑な心境を携えて、現場に急ぐ。

心なしか野次馬っぽい車が目立ってきた。空はその部分だけ赤く染まっている。野次馬が出てるのを発見し路駐をして現場に向かうことに。

現場に近づくにつれ、心臓の音が高鳴る。さっきまでの複雑な心境は単純になり、能力開花への道筋を立てる冷静な作業と裏腹に飛び出しそうな程弾む心臓。こんな時に何と不謹慎な。しかし、私の心は弾み顔には笑みを浮かべているのを自覚していた。マスクをしている為バレないだろう。暗闇で人の顔の判別等付かないだろうし、何より、現場では皆悲壮感に包まれた顔をして眺めているに違いない。


野次馬に紛れて先に来ていた火の用心の半纏を着た消防分団員が消火活動を始めようとしていた。

規制線ギリギリの場所で分団員の声掛けに聞き耳を立てる。

どうやら逃げ遅れている人がいるようだ。もはやマスクでは隠せないほどに私の笑みは顔中に広がっていた。と、同時に私の足は規制線を越し半纏と野次馬の間を縫うように走り、半纏の比較的少なく野次馬の多い場所へぬるりと抜けて出た。

野次馬が多く裏通りということもあり、なかなか進まない半纏の作業。それを横目に暗闇を利用して少しずつ入手経路を探していく。

すると、2階の窓から侵入できそうな経路が見つかった。

建物の建っている場所が山の麓である。先程まで居た裏通り側から見れば玄関付近は半纏がうようよ居る低い場所。しかし、今ぬるりと抜けてきた通りは上り坂となっていて、家の裏側は大きな国道と繋がっている。つまり、国道側から見れば屋根の位置が国道より低いのだ。

これを利用しない手はない。国道沿いから家の屋根にジャンプし、バルコニーから家に侵入。逃げ遅れた人を助け炎の中から脱出。その時!私は待ち望んだスタンダップ能力者へと変貌を遂げるのだ!


国道沿いでは消防車の為に道を開けろと半纏達が規制をしだした。素早く行動に移さねばとまだ規制が張られていない間を抜き、思い切り屋根にジャンプした。

行動を起こしたことでドヨドヨとその場の雰囲気が一気に緊張感を増した。


なにをしている!!

早くそこから離れなさい!!

降りなさい!!


群がり続ける野次馬

それを阻止するのがやっとの半纏達

私は制止する声を振り切って遂にバルコニーから家に侵入した。

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