第4話 週末の予定


 向河原先輩とまたゲームで遊びたい。昨日のあの一時のことが頭から離れず、今隣で歩いてる梓が喋っていることにも、適当に返事をしていた。


「ねえ華恋、聞いてる?」

「聞いてるよー」

「そう?でさ、お兄ちゃんが誕生日プレゼント買ってくれたんだけどね」

「そっか、良かったね」

「……。そのプレゼントが珍味だったの」

「そっか、良かったね」

「華恋、誕生日に珍味貰って喜ぶ女子高生なんていると思う?」


 適当に返事しすぎていたことに気付き、一応ちゃんと答えてみる。


「梓なら喜ぶんじゃないの?珍味好きでしょ」

「ま、まあ好きだけどさ〜。なんか違うじゃん?」

「それでまた喧嘩したとか?」

「私がプレゼント開けて無言で固まってたら、何も言わず出て行った。そこからまだ会話してない」

「ちゃんとありがとうは言いなよー」

「はーい」


 そして学校へ着き、授業が始まる。


 午前の授業が終わり昼休みに入ると、いつも通り私の席に来た梓の手には、弁当の包みとそれなりの値段がしそうなスルメイカの珍味があった。


「それが誕生日プレゼント?」

「そう。華恋と食べようと思って」

「え……。昼休みにスルメイカ食ってる女子高生って可愛いと思うの?」

「文句あるならお兄ちゃんに言って」


 じゃあ家で食えと言いたいところだが、その珍味は少々大きめ。一人で食べきるのは大変なのだろう。


「それよりさ、今週末遊びに行こ」


 弁当を食べ始めた梓が急に遊びの誘いをしてきた。いつもならすぐに良いよと返事をしているところだけど、今回はそう言えない理由がある。


「え……今週末?」

「何か予定入ってたりするの?」


 今週末は向河原先輩に会いに行こうと考えていた。でもまだ約束はしていない。だから先約は梓だ。


「予定は……。無いかな、多分」

「なんか微妙な反応だね」

「もし他に予定決まったらさ、そっちを優先したら怒る?」

「うん、怒る」

「だよね」


 そりゃあそうだ。ここで断らずに予定が無い、と言っておいて、親友の先約よりも優先されて良いものなんてあってはいけない。


「明日までに決めるから。ごめん」

「華恋がどんな予定を入れようとしてるか分からないけど、もしもそっちを優先するなら、ちゃんと教えてね。親友の私より優先したいものが何なのか気になるし」

「了解。親友に隠し事は出来ないなぁ」

「当たり前でしょ」


 私だって梓を優先したい。親友と、片想いの相手、どっちと会いたいかなんて、誰でも分かること。もしも梓に私が向河原先輩を好きなことを話していれば、誘いは簡単に断ることができたかもしれない。


 午後の授業中、週末の予定がどうなるのかをずっと悩んでいた。一体自分はどうしたいのだろうか。何が正しいのかもよく分かっていないのに。私は梓への申し訳無さと、向河原先輩に依存しかけている自分への葛藤が頭を駆け巡る。


 部活を終え学校を出ると、私は真っ直ぐゲームセンターへ向かった。入口付近に不良達がいたが目を合わせず中へ入る。


「先輩!」

「おお、津田山!」


 金髪の天使が笑顔で手を振って迎えてくれた。可愛い。


「外に不良達いましたけど、大丈夫でしたか?」

「私が来た時はいなかったけどな。まあ絡まれたらよろしく〜」

「任せてください」


 と言いながらも、来ないでくれとひたすら祈る私。


「じゃあ今日もやるぞ津田山」


 先輩は椅子から立ち上がり、私はその椅子に座る。小銭を入れ、操作もまだよく分かっていない格闘ゲームを開始した。先輩が後ろで色々と指摘してくるが、先輩を見られない今は、声を聞くだけで耳の保養になるから幸せだ。


 三十分ほど経った頃、私はふと梓との約束を思い出し先輩に尋ねる。


「先輩、今週の土日も遊べますか?」

「そんなにこのゲームにハマったのか?」

「ま……、まあ、はい。先輩といるのが楽しくて。だからまた先輩と遊びたいって思ったんです。良ければゲーム以外にも、先輩こと教えてください」

「……」


 黙り込む先輩。

 何かまずいこと言ったかな。


「まだ会って三日なのに、そう思ってくれるのは嬉しいけど。このゲームよりこんな私が良いってのか?」

「はい」

「津田山って前の私を知ってるんだよな?」

「知ってます。それでも今の先輩と仲良くなりたいって思ったから」

「そっか。まあいいや。これからよろしくな」

「はい!よろしくお願いします!」


 これで先輩と友達のような関係になることはできた。あとは問題の今週末。

 一時反れかけた話を先輩が戻す。


「じゃあ土曜、ここ集合で良いか?」

「大丈夫です!先輩、連絡先聞いても良いですか?」

「あ?あぁ」


 先輩はスウェットのポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリで連絡先を交換した。


 二十時を過ぎていたことに気が付き、私は椅子から立ち上がると先輩と明日の約束をする。


「私はそろそろ帰ります。明日またこの時間に来ても良いですか?」

「毎日会いに来るつもりか?まあ良いけど」

「ありがとうございます!それじゃ先輩、また明日!」

「気を付けて帰れよー」


 別れを惜しみながら手を振り、出口へ向かう。

 そして今日も先輩との短い時間が終わってしまった。


 翌日、梓が体調を崩して学校を休んでしまい、放課後になると私は先輩に謝罪の連絡をして、スポーツドリンクだけを買い梓の家へ真っ直ぐ向かった。


 家のチャイムを鳴らし、母親に案内され梓の部屋へ。

 部屋の扉をノックすると、はーい、と声が聞こえ扉を開ける。


「梓、生きてるかー?」

「おー、私の王子様が来てくれた」


 ベッドで横になっていた梓は起き上がろうとするが、諦めてそのまま横になった。私は買ってきたものをテーブルに起き、その場に座る。


「熱あるの?」

「三十七度五分だよー」

「普通に発熱じゃん。ほら、スポドリ買ってきたから飲みな」


 買ってきたスポーツドリンクの蓋を軽く開け、梓に差し出す。


「ありがとう王子」

「様はどうした様は」

「あはは」


 ベッドから起き上がった梓は、受け取ったスポーツドリンクを開け二口、三口と喉へ流し込んだ。


「大丈夫、スポドリ美味しいから」

「それは良かった」


 二十一時まで梓の看病して、急いで帰宅。


 夕食やお風呂を済ませ寝る準備が終わると、急いでスマホを開き向河原先輩へメッセージを送った。


「先輩、連絡送れてすみません。明日は何時に集合しますか?」

「友達はもう大丈夫なのか?」

「はい、大丈夫そうです」

「良かった良かった。明日の集合時間、昼の一時頃で良いか?」

「良いですよ!」

「それじゃおやすみ」

「おやすみなさい!」


 先輩におやすみと言い合えたことが幸せすぎて気持ちが昂る。

 明日に備えて早く寝ないといけないと分かっていながらも、先輩と一日中遊べるという楽しみも相まって、あまり眠ることが出来なかった。

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