第2話 先輩を想いながら
向河原先輩と会った翌日。
学校へ向かう途中で、私はゲームセンターの前を通るついでに外から店内を覗く。
……やっぱいないかぁ。
向河原先輩に会えるかもしれない、そう考えてみたが、外からだと仮にいたとしても見える場所にはいないだろう。でも僅かな期待から店内の入口付近までを見る行為はきっと無駄では無いはずだ。
途中の交差点で後ろから梓の声が聞こえ振り返る。
「華恋おはよー!」
「おはよう梓!」
元気よく挨拶してきた梓に私も笑顔で返した。
「昨日ゲームセンターで不良に絡まれなかった?」
「私は絡まれなかったから大丈夫」
「私は……?」
ふと私の返事に疑問を示す梓。
「絡まれてる人がいてさ〜」
私は向河原先輩のことを話そうと思ったが、誰とまでは言わないでおこうと思った。私が向河原先輩を好きなことは梓には話していない。でも不登校だという話は梓から聞いているし、その先輩をネタにするようなことは私として良い気分はしないから。
私は少し誤魔化し続きを話す。
「中学生くらいの子が絡まれていてさ、助けてあげたの」
「え、華恋つよ。喧嘩にならなかったの?」
「ならなかった。文句言いながら帰って行ったよ」
「さすが。もし私が不良に絡まれたら華恋が助けてくれるから安心だね」
「梓は絡まれないから大丈夫」
「それどういうこと?」
「ごめん、適当に言ったから気にしないで」
「無理、気になる」
「いつでも助けてあげますよお姫様」
「華恋って王子様みたいだよね。結婚しよっか」
「そんな軽いお姫様と結婚したくないんだけど」
私と梓は笑いながら話しに夢中になり、気付くと学校へ着いていた。
今日から七月が始まり、中途半端に冷房の効いた教室は寒くもなく暑くもない快適な室温を維持していた。
……また先輩に会いたい。今すぐにでも会いに行きたい。金髪の先輩も本当に可愛かった。今頃ゲームセンターで好きなゲームで遊んでいるのだろうか。今日の帰りにまた寄ったらいないかな。
私は授業には集中できずに、ずっと昨日のことで頭がいっぱいになっていた。
ふと横から声が聞こえ我に返る。
「華恋!華恋!大丈夫?」
席の横から私の顔の前で手を振り意識を確かめる梓。
「あ、ごめん梓、何?」
「目開けたまま、気絶してるのかと思った」
私は黒板の上の時計を見上げる。時刻は十二時三十分。
「嘘、もう昼休み!?」
「華恋しっかりしてよー」
お弁当が入った包みを私の席に置いた梓は、前の席が空いていることを確認し、椅子をこちらへ向けて座った。
「何かあった?相談に乗るよ王子様」
「別に何も無いよ。心配してくれてありがと」
「うん。嘘だね。でも華恋が話したくないなら別に良いや。そのうち話してね。それで昨日さー」
深く詮索しないでくれるのは本当に良い親友だと心から思う。
梓は昨日兄と喧嘩したらしく、私はその愚痴を聞きながら弁当を食べ昼休みを過ごした。
梓の愚痴を聞いたおかげで、午後の授業は余計なことを考えず集中することができた気がする。
帰りのホームルームが終わり、荷物をまとめ更衣室へ向かう。ジャージに着替え体育館へ行くと、すぐにバスケ部の練習が始まった。
一時間ほどで休憩に入り、私はバスケ部で仲の良い
「立川先輩、ちょっと良いですか?」
「華恋が相談なんて珍しいね。どうしたの?」
「大したことじゃないんですけど、向河原先輩のことって何か知ってたりしますか?」
「なんで華恋が
「バレー部の友達から不登校になってるって話を聞いたのでちょっと気になっただけです」
「隣のクラスだからあんまり詳しく無いんだけど、友達と喧嘩したか何かだったかと。もしかして華恋が聞いたってゆうバレー部の友達って、紗菜と喧嘩した本人から聞いたんじゃないかな?バレー部の副部長の
「梓は不登校ってことを聞いたとしか話してませんでした。明日また梓に聞いてみます。教えてくれてありがとうございます」
「もしまた何かあればいつでも聞いてね〜」
そして休憩が終わり練習が再開。
私は部活が終わるまでずっと、立川先輩から聞いたことが脳内を巡り続け、向河原先輩本人に会って、直接確かめたいと強く思っていた。
梓がいるバレー部より先に部活が終わると、私はいつも通り一人で下校し、駅前のゲームセンターの前で足を止める。
「向河原先輩、いないかな」
私はそう呟いた。日も暮れ始めていたため寄るのは諦めようと思ったが、足は勝手にゲームセンターへ向かい歩き出す。
入口のドアが開き中へ入ると、向河原先輩と会ったアーケードゲームコーナーへ向かった。
しかしそこには不良は疎か先輩の姿も見当たらず、男子高校生が数人いるだけ。
私はゲームを端から眺めながら歩く。
……先輩はどのゲームが好きなのかな。
推しがSNSに載せた場所へ訪れるかのように、先輩が普段やってるゲームが何かを妄想しながら一通り見て回った。
「帰ろっと」
私は推し活を終えたかのような気分で、ゲームセンターを眺めるだけとゆう用を済ませ帰宅した。
自宅に帰り夕飯を済ませお風呂に入る。そして寝る支度を済ませた私は、部屋のベッドの上で壁に寄りかかりながらスマホを開き、梓にメッセージを送った。
「今日部活で立川先輩に向河原先輩のこと聞いたんだけど、不登校以外に何か聞いてる?」
メッセージはすぐに既読になり返信が来た。
「中原先輩から聞いたってやつ?私、華恋にどこまで話したか忘れちゃった」
「いいよ、最初からでも」
「電話するね」
そして着信音が鳴り、会話を電話へ切り替える。
「メッセージ打つの面倒だから電話で話すね。去年まで、バレー部が終わるのを待ってた先輩がいてさ」
「もしかしてそれが向河原先輩?」
「そう。中原先輩と仲良かったみたい。それで部活終わって中原先輩と向河原先輩が一緒に帰るって光景をよく見てたの。そして最近、向河原先輩がいないことが気になって聞いたら、学校来なくなった、って」
「それだけ?」
「向河原先輩に何かあったのかを聞いたら、知らないって。あんなに仲良かったのにどうしたんですか?って聞いてみたけど、連絡が繋がらないから分からないって」
「梓はそれ聞いて深く詮索しようとは思わなかったの?」
「気になったけど、中原先輩が言いたくないならそれで良いかなって」
「梓ってそうゆうところあるよね」
「華恋は立川先輩から何聞いたの?」
……聞いたことをそのまま話して良いのだろうか。中原先輩は梓に喧嘩のことは話していない。
「梓は中原先輩から聞いてどう思ったの?」
「まあ……、喧嘩したんだろな、とは思った」
「そこまでは分かったんだね」
「華恋が聞いたのは?」
「喧嘩したってところまで」
「そっか。ねえ、聞いても良い?華恋ってなんで向河原先輩にそこまで拘るの?好きとか?」
「いや、別にそういうわけじゃないけど。なんとなく気になったからさ」
「そっか。向河原先輩ってめっちゃ可愛かったし、部活終わりに天使様を拝めなくなったのは寂しい」
「本当に可愛い先輩だよね。夜遅くにありがとう。また明日」
「また明日〜」
梓との電話が終わり、スマホを充電器に挿し部屋の電気を消す。
そして布団に入り目を閉じるとすぐに眠りについた。
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