天使が堕ちていた
三咲旭
第1話 堕ちた天使
私は一つ年上の同性の先輩に片想いをしている。
目を奪われるほど綺麗な黒髪のストレートヘアーに、キラキラ輝く笑顔がとても眩しく、小柄な容姿が堪らなく可愛い、まるで天使の様に美しい先輩。
だけどその先輩は今、不登校になっていた。
最後に廊下ですれ違った日から半年が経った六月末。
高校三年になっているはずの先輩は今どこで何をしているのだろう。最近はずっとそんなことばかりを考えていた。
帰りのホームルームが終わりチャイムが鳴る。
「華恋、一緒に帰ろー」
私、
「梓と帰るの久しぶりじゃない?」
「部活が休みの日しか一緒に帰れないからね~。毎回バスケ部の方が早く終わって羨ましいよ」
「バレー部が遅いだけでしょ。バスケ部が帰る時も終わる気配ないしさ。部長厳しすぎでしょ」
「たしかに今の部長になってから厳しくなったかも」
帰り支度を終えた私と梓は、話しをしながら学校を出る。
学校から十分ほど歩いた場所にある駅前まで来ると、いつもは素通りしているゲームセンターがどうしても気になった私は、梓にさりげなく尋ねる。
「梓ごめん、ゲームセンター寄っても良い?」
「あそこかぁ、私はやめとく。この時間って不良の溜まり場になってるし」
「じゃあ私一人で行くよ」
「そんなにやりたいゲームでもあるの?不良に絡まれないように気を付けてね。じゃここで。また明日ー」
手を振って駅へ向かう梓に私は手を振り返し見送った。
特にやりたいゲームがあった訳ではない。ただなんとなくそこに私の求める何かがある気がしただけ。
ゲームセンターへ入ると、アーケードゲームコーナーの前で金髪の少女が不良達に絡まれていた。怒鳴りつける不良達に対し、何も言い返さずただ黙り込む少女。
「……助けなきゃ」
私は迷わず不良達に近づき間へ押し入る。
そして少女の腕を掴み、顔を見た。
……え、先輩!?
目の前には、私がずっと片想いをしている先輩の姿があった。
私は先輩の腕を引っ張り、一先ず不良の集団から抜け出す。
「おい、引っ張るなって」
驚いて抵抗する先輩に私は、「まず外に出ましょう」と言い腕を掴んだままゲームセンターの外まで出た。
「……助けてくれてありがとう」
先輩は小さな声で感謝の気持ちを述べた。
「あの……、
私は先輩の名前を確認する。
「あぁ、そうだけど。お前はうちの高校の後輩だよな?何年?」
「二年です」
「つーか、なんで私のこと知ってんだよ。私ってそんなに有名だったか?」
先輩の学校での知名度はあまり高くない。不登校の話題も梓がバレー部の先輩から聞いただけだった。
しかも、今の先輩は金髪のボサボサヘアー。以前のような黒髪のストレートヘアーの面影は無く、私以外の同級生は一目見ただけじゃ気づかないかもしれない。
「去年すれ違った時によく見ていたので覚えてました」
私はわざとらしく笑いながら答えた。片想いしてるなんて言えるわけない。
「へぇ、記憶力良いんだなお前」
先輩はとりあえず納得してくれたみたいで良かった。
私達が話しをしていると、ゲームセンターから先程の不良達が出てきてこちらを睨みつけた。
私は先輩を隠すように背を向けると、不良達はぶつぶつ言いながら帰って行く。
「お前なんでこんな私のこと守ろうとするんだよ。こんな不登校で金髪のやつ、近付きたくもないだろ普通」
「困ってる人を見つけたら放っておけない性格なので。それより、なんで絡まれてたんですか?」
「やりたいゲームの前にあいつらがいたから、睨みつけたらああなった」
……理由がもう、可愛い。
「この時間はあまり来ない方が良いですよ。不良の溜まり場みたいだし」
先輩がこの時間帯にはあまり来ないであろうことは、なんとなく分かっていた。駅前は毎日通るけど、この半年間一度も先輩とはすれ違ったことが無かったし、不良がいる時間にわざわざ女子高生が一人で来ることは無いと思ったからだ。
「いつもは空いてる平日の午前中に来てるからな」
「やっぱりそうだったんですね」
「お前も帰り気をつけろよ、さっきの不良共がまだいるかもしれないし。んじゃ私は帰る」
先輩はポケットに両手を突っ込みながら駅と反対の方向へ歩いて行く。
呼び止めようと考えたが、その背中がこれ以上話すつもりは無いと言っているようで、諦めて見送った。
私は好きな先輩に会えただけでも良かったと満足している。
不登校の理由など聞きたいことは色々あったが、次に会えた時に聞けば良い。またゲームセンターに来ればきっと会えると思うから。
すっかり変わってしまった先輩を見たときは本当に驚いたが、金髪で口が悪くなったとしても先輩はやっぱり可愛い。堕ちた先輩も私にとっては可愛い天使だ。
帰り道も夕飯の時もお風呂でも、今日あった出来事で私の脳内は埋め尽くされていた。
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