四 ミイラの正体

 さてその頃、県境の峠にある見晴らしの良い休憩所では……。


「──やあ、甘沢くん。ご苦労だったね」


 なぜかそこに、微笑みを湛えて手を挙げる此木戸蔵夫の姿があった。


 休憩所の駐車場へコンテナ車が入ってくると、その助手席から降りたショートボブの女性に此木戸は声をかける……そう。あの捜査官だ。


「なんとかうまくいきました。このまま関門トンネル経由で本州へ渡り、高速で東京まで運ぶ予定でいます。スミソニアンの本部へ行くかどうかはその後の判断になるかと」


 笑顔で出迎える此木戸に、女性捜査官も親しげに言葉を返す……いや、本当は警察庁美術犯罪対策課の捜査官などではない。じつは彼女もまた、此木戸と同じO.P.Aミュージアムの学芸員・甘沢敬美あまさわよしみなのだ。


「いずれにしろ長距離の輸送になるな。もう一度状態を確認しておきたい。あれはこの世界にあってはならない・・・・・・・・・・・・・物であるとともに、人類にとって最重要の資料でもあるのだからね」


 助手の甘沢にそう呟くと、此木戸はコンテナの扉を開かせ、中に載せられた河童のミイラの梱包を解く。


「やはり保存状態の良い完形のミイラだ……しかし、まさか九州の片田舎にこんなものが埋もれていたとはな。しかも、河童のミイラと間違われて」


「八代とか、熊本には河童伝説が残っていますからね。もし本物の河童のミイラだったら、まだ放っておいてもよかったのに……でも、なんで熊本にこれ・・があったんでしょう?」


 LEDの懐中電灯を手に、再び姿を現したミイラを隅々まで眺めながら、薄暗いコンテナの中で此木戸と甘沢は語らう。


「鏑木千早の祖父・英利はメキシコに移民していた。おそらくは当地で手に入れ、帰国の際に持ち帰ったものだろう……マヤやアステカの遺跡に埋葬されていたものか? なんにせよ向こうなら、こうした〝エイリアン〟の遺体があっても不思議ではない」


「なるほど。それが河童伝説の地で生まれ育った者の目には、異星人ではなく河童のミイラに見えてしまったと。確かに似てなくもないですからね。河童とこの手のグレイタイプ」


「ま、あくまで推論の域を出ないがな……さて、このまま運んでも大丈夫そうだ」


 そんな意味深な会話を交わした後、ブツを確認した此木戸達はまた丁寧に梱包をもとに戻す。


「お爺さんの遺品、奪ってしまって千早氏には申し訳ないが、これもこの世界と人々の精神の安定を守るための私達の責務だ」


「ええ。わたし達は他でもない、O.P.Aミュージアムの学芸員ですからね」


 そして、自らに言い聞かせるようにしてそう嘯くと、此木戸と甘沢はコンテナを降り、その分厚い金属の扉をゆっくりと閉じた。


 O.P.A……それがOrient Space Artifacts──オリエント地域工芸の略であるというのは表向きの方便である。


 その頭文字が本当に意味するところは〝Out-of-Pace Artifacts──場違いな工芸品〟。通称〝オーパーツ〟。


 そう……世界各地に存在する〝オーパーツ〟を回収・秘匿し、世界の混乱を防ぐことが、彼らO.P.Aミュージアムの仕事である。


(コレクト - File01 河童のミイラ 了)

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コレクト - File01 河童のミイラ 平中なごん @HiranakaNagon

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