第4話 ストーカー
高校時代までは、引きこもりとなっていたが、
「受験を突破する」
という意味では、
「実に都合のいい考え方だっただろうか?」
ということである。
父親も気を遣ってくれて、
「受験生が家にいる」
ということもしっかり把握できていたはずであった。
特に。
「父親としても、娘にアドバイスの一つも上げたいのだろうが、それには度胸というものがいる」
ということになる。
しかし、いくら度胸をもって話しかけたとしても、それが、徒労に終わってしまったとすれば、お互いに気まずいということになるだろう。
それでも、大学入試が
「浪人することもなく合格できた」
ということは、父親としても、
「金銭的にも。精神的にもありがたかった」
どちらにしても、父親としては、
「いっぱいいっぱいだった」
といっていいだろう。
金銭的には、
「社会のせいにしてはいけないのだろうが、この不景気において、娘を大学にやるには、予備校代というのも、きつい」
と思っていた。
ただ、もし浪人することになれば、予備校代は、バイトして稼ぐつもりだということは考えていただろう。
しかし、だからと言って、
「バイトしたから、次の入試にも不合格だった」
などということになれば、それはそれで、本末転倒も甚だしいということであろう。
それを考えると、ある意味、
「不合格は、八方ふさがりを意味する」
といってもいいだろう。
大学入試もうまくいったことで、父親は、
「これでやっと、解放される」
と思ったことだろう。
大学生の時、一人暮らしをしてはいたが、
「家賃代以外の仕送りはいらない」
ということであった。
「入試と並行してのバイトではないので、それほどきつくもないし、当たり前のことであり、本末転倒ということにはならない」
といえるであろう。
それを考えると、
「バイト生活」
というものが、大学生活において、
「メリハリをつけさせる」
という意味で、よかったといえるのではないだろうか?
友達もそれなりにできたが、むやみやたらに増やさなかったということは、かすみにとっては、
「いいことだった」
といえるのではないだろうか。
それを考えると、
「就活の時だけは、少し焦ったが、それまでの、高校や大学の入試」
というものには、それほど危機感を感じていたわけではないということであろう。
「きつかった」
ということと、
「危機感を感じさせる」
ということは、それぞれに、違ったものなのであろう。」
そんな新藤かすみが殺されている現場が発見されたのは、かすみが就職した会社の近くでのことだった。
夜中に発見されたのだが、その場所は、普段であれば人通りの多いところで、実際に、その時間、夜中ではあったが、まったく人通りがなかったわけではない。
近くには、ちょっとした繁華街があり、その繁華街を定期的に、警察もパトロールする場所なので、何かあれば、
「普通なら、複数の目撃者というものがいて当然だ」
ということになったことであろう。
実際に、このあたりでは、数年前にも殺人事件があった。
その時は、何と、時間的には、午後六時過ぎという、夕方でも、一番人通りの多い時だったのだ。
全国のニュースでも放送され、その数日義にも、
「犯人はまだ捕まっておりません」
という情報しかなかった。
ただ、
「犯人が誰であるか?」
ということは最初から分かっていた。
何といっても、都会のど真ん中の、一つ裏に入った路地である。
そこは、普段はオフィス街と言われるところで、朝と夕方の、通勤時間、そして、昼休みともなると、人が複数連れだって歩いている光景を、
「普段の光景」
として見かけるのであった。
当然、そういう場所なのだから、防犯カメラなどあって当然である。
実際に、警察が事件が起こってから、付近の聞き込みと並行して、防犯カメラを押収し、その時間の映像を解析することくらいは、最初からやっているというものだ。
しかも、その被害に遭って殺された女性は、
「ストーカーに付きまとわれていて、警察に相談していた」
というではないか。
案の定、犯人はその男で、その男は、
「オンナを殺して逃げている」
ということになったのだ。
実際に防犯カメラには、いい争いをしている二人の姿が映っていて、刺したところも映っている。
その言い争いというのも、明らかに、男が女を問い詰めるような状態で、女が嫌がっている姿であった。
二人の関係を知らない人でも、その男が、
「彼女に対して、しつこく付きまとっている」
ということは、一目瞭然というものであった。
実際に彼女は生活安全課に相談を寄せていて、警察が動いてもいた。
「警察というのは、何か起こらないと行動しない」
と言われているので、しかも、ストーカー問題というと、
「下手に警察が絡んでいる」
ということを相手が知ると、
「逆恨みをする」
という危険性があるので、警察もうかつに手を出せないということになるのであろうが、今回は、まさに、その
「逆恨みが原因」
ということであろうか。
あまりにもひどい状況だったからだろうか、
「接近禁止命令」
のようなものが出ていた。
ということは、実際に、
「そのストーカー行為は、ある程度、度を越している」
ということが明らかであった。
いくら警察とはいえ、
「ハッキリとした事実関係を確かめずに、被害者が、困っているから」
ということで、
「禁止命令」
というものが出せるわけではない。
最初はあくまでも、
「警告」
というものから入るだろう。
相手の言い分も聞いたうえで、それでも、
「女性が危険だ」
ということになれば、警察は相手の男に対して、
「彼女が困っているので、彼女が嫌がる行為をしないでください」
という警告をするだろう。
それでも、まだ続くようであれば、さらに、警告以前、警告以後の事実確認を行い、事情聴取を行い、それでも、悪質な行為が止まらないと、
「接近禁止命令」
であったり、それだけでは済まなくなると、
「逮捕状を申請し、逮捕する」
ということになるだろう。
逮捕してしまうと、
「起訴するかどうか」
ということになるわけで、起訴されると、
「裁判で争う」
ということになるだろう。
ただ、なかなかそこまで行くことはないかも知れない。
この時のように、禁止命令が出た時点で、犯行に及ぶということも考えられるからだ。
しかし、これはあくまでも、
「最悪の事態」
ということで、当然、警察がその批判のやり玉に挙げられるというのは当たり前のことであろう。
そもそも、
「ストーカー」
というものは、そんなに昔から言われていたものではない。
確かに、
「異常な形で、異性に付きまとう」
ということはあっただろう。
中には、
「気になる女性がいて、その人がどこに住んでいるのか知りたくて、尾行をする」
というくらいであれば、昭和の頃も普通にあっただろう。
しかし、そこで収まっているくらいであれば、問題はなかったかも知れない。
今のように、
「個人情報」
というものに厳しくなかったので。
「家を知られる」
ということも、何かの被害に遭わないということであれば、問題はなかったのかも知れないからだ。
だが、
「個人情報に、やたらうるさくなったのは、このストーカー問題というのが、大いに影響しているのかも知れない」
ということになるのかも知れない。
だが、
「ストーカー問題」
というものが出てくると、そのエスカレートぶりは、ひどいものだった。
それまでは、
「ストーカー行為というものをする人が少なかったから、問題にならなかったのであって、ちょっと問題となるようになると、急にそういう人が増えるというのは、どういうことなのだろう?」
と思うようになるというものだ。
特に、
「ストーカー犯罪」
という言葉が出てくるようになると、その数が激増する、
「これって模倣犯」
ということなのか、それとも、以前であれば、
「こんなことを考えるのって、俺くらいじゃないのか?」
ということで、行動をためらっていた人間が、
「なんだ、他にもいっぱいいるんじゃないか?」
ということで、
「ストーカー行為をしてもいい」
ということにはならないはずなのに、
「集団意識」
というものの表れか、逆にいえば、それまで、
「自分だけなんだ」
という悶々とした気持ちでいたものが、一気に解放されるということの方が、その人にとって安心感を与えるということになれば、自分勝手に、
「エスカレートしてもいいんだ」
という、歪んだ考えに至るのではないだろうか。
だから、
「ストーカー」
という名前の犯罪ができてくる。
それによって、本来なら、社会問題として、
「それは悪いことなんだ」
という思いになればいいのだろうが、
「今までは、悪いことだとは思っていたが、他に誰もそんなことをする人はいないという感覚で、自分が異常なんだ」
という意識から、解放されたと思うと、悪いことだと思っていても、してしまうというのが、集団意識であり、その意識が、異常な気持ちに火をつけてしまい、
「さらに社会問題を煽る結果になる」
ということになるのであろう。
だから、今でも、定期的に、
「ストーカーによる犯罪」
というのは起こっていることだろう。
ストーカー犯罪ではないが、
「ニュースになるのは、氷山の一角」
と言われることも多いことだろう。
特に、
「飲酒運転」
というものも、その一つではないかと思えた。
数年前に、飲酒運転をすることで、家族がひき殺された」
という事件から、端を発し、
「道路交通法も、刑法も、かなり厳しい罰則に変わった」
ということであったり、
「その事故が起こった地域では定期的に大規模な取り締まりをしていたり」
ということになっている。
そもそも、
「全国の警察で同じようにしないといけない」
ということなのだろうが、しょせん警察というのは、
「管轄」
という、
「縄張り意識」
というものが強いということで、横のつながりは、全然だということになっているのであった。
だが、そんな事件があった管轄で、定期的に取り締まりを行っているのに、毎回のように、実名を明かして、容疑者が逮捕されたということを報道している。
しかも、それが、
「警察や市の職員」
という、公務員の職についている連中だ。
それは、
「公務員だから、名前を明かされて、社会問題になる」
ということで、しかも、それが、
「毎回だ」
ということになると、それこそ、
「氷山の一角だ」
といえるだろう。
毎回、数人が検挙され、逮捕され、名前が公表されるということは、
「実際には、一般市民がもっとたくさんいるだろう」
ということで、それこそ、
「氷山の一角」
ということになる。
ただ、市民はそのことよりも、
「警戒して、飲酒運転撲滅を訴えている警察官が、率先して飲酒運転をしているというのは、どういうことなんだ?」
ということに目を向ける。
一般市民からすれば、
「飲酒運転は許せないが、一般市民であれば、まだ許せなくもない」
と思えるのだ。
それは、中には、
「そいつらは、運悪く捕まっただけなんだ」
と思っているかも知れないということだ。
問題はそこではなく、
「警察の呼びかけが、まったく聞いていない」
ということである。
そして、市民の中には、いまだに、
「ちょっとくらいなら、大丈夫だ」
と真剣に思っている人が多いのではないかということだ。
何といっても、
「公務員しか逮捕の報道がされるわけではなく、せっかく警戒態勢を引いているのであれば、その日に、どれだけの人数に職質や検査を仕掛け、そのうちのどれだけが検挙対象になったのか?」
ということを公表すれば、それが、
「飲酒運転の抑止になる」
ということではないだろうか。
それを公表できないということは、
「取り締まりというのは名ばかりで、適当にやっている中で、それでも数件見つかる」
ということになるのか、それとも、
「警戒はしっかりしていて、そのせいで、実際に取り締まりを受けた人数が、あまりにも多すぎる」
ということで、警察としてのメンツが保てないということで、結局、
「公表ができない」
ということではないかという邪推もできるということだ。
どちらにしても、
「警察の権威というものが、地に落ちる」
という結果にしかつながらず、
「これだったら、取り締まりなどしなければいい」
ということになるのだろうが、今度は取り締まりをしないならしないで、
「警察は、税金の無駄遣いをしている」
と言われ、
「余計なことはするくせに、肝心なことはしない」
と言われ、それこそ、
「警察の威信は地に落ちている」
といってもいいだろう。
それを考えると、
「いくら庶民に愛される警察」
というものを謳ってみたとしても、そんなものは、
「絵に描いた餅でしかない」
ということになるだろう。
それを考えると、
「ストーカー事件」
にしても、
「飲酒運転の取り締まり」
ということにしても、結局は、
「警察って、何をやってるんだ」
ということにしか、結果的にはならない。
ということであろう。
しかし、警察としての、
「つらい立場」
というのも分からなくはない。
何といっても、
「警察は、事件を未然に防いだとしても、それを褒められることはない」
ということになるのだ。
というのも、
「未然に防いだのだから、何かが起こったわけでもないので、それを世間に公表できない」
ということでの、
「つらい立場になる」
ということである。
今回のストーカー殺人事件というものは。その時のストーカー殺人というものと、ほとんど似ているような感じだった。
さすがに時間帯が、以前のような、
「一番人通りが多い時間帯」
ということではなく、
「それほど多くない時間帯であるが、一人もいないということは珍しい」
と言われるくらいの時間帯だった。
実際に、防犯カメラにも映像としては映っていたが、前の時のように、ハッキリ映っているわけでもなかった。
しかし、
「女性が男性に刺されて、その場で倒れた」
ということに変わりなない。
しかも、言い争っているというのも、間違いではないようで、ただ、顔がハッキリとしないということもあって、一概には、
「ストーカー犯罪」
とも言えないところであった。
被害者が倒れているのを歩行者が発見し、警察と消防に通報したことで、救急車がやってきたが、
「その時には、すでに死亡が確認された」
ということであった。
警察が捜査をすると、その女性は、
「生活安全課では、被害に対しての報告はない」
ということであった。
ただ、彼女の会社で、
「最近、変な男につけられているような気がする」
といっていたという証言もあった。
その人は、
「彼女とそんなに親しい間柄ではない」
ということであったが、他のもっと親しい人には、そのことは話していなかったという。
というのも、彼女が親しい間柄というのは、
「集団での付き合い」
ということで、そういう意味では、
「親しい親友のような人はいなかった」
ということであった。
そのことについて、会社の同僚も皆周知していることのようで、
「新藤さんという人は、個人的な親友はいなかったと思いますよ」
といっていた。
「じゃあ、親しくされている男性に心当たりは?」
と聞かれると、
「いや、そういう人もいないんじゃないかな? 私の知っている限りでは」
ということであった。
これは、部内の同僚や先輩、さらには、上司に聞いても、皆同じ意見であった。
そして、
「もし、そういう人がいるのだとすれば、彼女は、相当まわりに秘密にできるだけの素質のようなものを持っていたことになると思いますが、私には、そんな雰囲気を感じられませんでしたね」
と答えたのだ。
確かにその通りのようで、これは、
「同僚、先輩、上司」
と、皆同じ意見だったようだ。
そういう意味で、
「裏表のない人だった」
ということになるかも知れない。
「分かりやすい性格だ」
ということはいわれていたようで、その内容に関しては、
「人それぞれにいわれることが違っている」
ということのようだった。
というのは、
「彼女を恨んでいる人がいたかどうかは分かりませんが、少なくとも、この会社に、殺したいほど恨んでいる」
という人はいないと思います。
ということであった。
「じゃあ、ストーカーに狙われているとか、何か、彼女から自分の身に何かが起こるかも知れないとかいう話は聞いたことはないですか?」
と警察にいわれて、皆、苦笑していた。
「そんなこと分かっているんだったら、警察に行くように促すでしょう」
と言いたげだったのだ。
しかし、警察は、それに関しては信用はしていない。
というのは、
「お前らだって、相談されたからといって、その人に警察に行くように促すことはあっても、責任をもって、警察に連れていくようなことはしないだろう」
というわけである。
だから、
「相談されても、結局は、いうだけいって、責任を持つようなことはしないだろう」
と言いたいのだ。
警察官だって人間である。感情だってあるのだから、このような話を、鼻で笑うような真似をされると、イライラするという感情となるだろう。
「人間は、切羽詰まったら、誰にでも相談をしてしまう」
と思う。
しかも、それが若い人であれば、
「年配の人の意見を聞いてみたい」
と思うことだろう。
しかし、実際に相談して、
「するんじゃなかった」
と思う人も多いことだろう。
却って迷ってしまって、考えが一つにまとまらないということだっていくらでもあるというものだ。
「特に、高校時代まで相談する人はおろか、友達もいなかったりすると、大学に入って、友達がたくさんできたとしても、相談の仕方自体、どうしていいのか分からない」
ということになるのだ。
かすみは、特に高校時代まで、友達もいないタイプだったので、その典型的な例ということになる。
しかし、それを警察が分かるわけもないので、同僚の態度から、彼女がどういう人間だったのかということを、想像するしかなかった。
しかし、だからと言って、勝手に思い込んでいるだけでは、そうもいかない。
ただ、同僚の話を聞いているところでは、彼女は、
「分かりやすい性格だ」
ということだったので、話を聞いているうちに、
「少しは分かってくる」
というものである。
ただ、それも最初から、
「彼女が分かりやすい性格だと思われている」
ということを考慮に入れたうえで、少し、入り込んだ感じで解釈しないといけないとも思ったのだ。
つまり、
「話を鵜呑みにはできない」
ということで、あくまでも、
「同僚は同僚」
ということだ。
それを踏まえた上でないと、
「事件そのものを見失ってしまう」
といえるのではないだろうか?
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