『むしょくせいかつ』
@yuk1_ry0
プロローグ
これは夢だ。奇妙な夢だ。
眼前に広がる光景は、ここが現実の世界ではないことを物語っていた。辺りには見渡す限りに人が溢れかえっていて、彼らは皆同じように、首に縄を巻かれて宙づりにされている。異様だ。
誰一人として苦しがるそぶりもなく、まるでただマフラーでも巻いているかのように首の縄を平然と受け入れていて、それは自分も例外ではなかった。
夥しい数の縄は遠い遠い遥か天上から垂れ下がっていて、この空間に果てはないということが直感的に分かった。
ふと下を見てみるとやはり地面などなく、この首の縄が切れてしまえばどこまでも落ちていってしまいそうで、ひどい浮遊感と恐怖が襲ってきた。
それらから逃げるように辺りを見回していると、縄の太さが人によって違うことに気づいた。
神社のしめ縄のように太い人もいれば、単なるロープのような人もいる。
じゃあ、俺の首に巻かれたものはどうだ。縄と言うには細すぎて、もはや紐とか糸と言った方が適切である。
自分より細い人はいないか探してみるが、終ぞ見つけることはできず、ただ時間だけが過ぎていった。
終わりは唐突にやってきた。体が急に揺れ始めたのだ。見上げると、どこからともなく腕だけが現れて、俺の弱々しく、か細い縄を引きちぎらんと両手でつかんで引っ張り始めた。
その手、その指には見覚えがあった。
「やめろ、やめろ、やめてくれ!」と叫んでも止まってくれることはなく、ついに俺の命綱はピンッと音を立てて切れた。
当然俺の体は、下へと引きずられ、下へ下へと落ちていった。
永い間落ち続けていると、段々と自分から何かが抜けていく感覚に陥った。
ずっとずっと落ちていく——。
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