美月の視点

教室が賑やかだった。みんな帰り支度をしながら笑って、話しているけれど、私はそれに混ざる気分にはなれなかった。陽介がどこにいるのか、ふと視線を向けると、すぐに見つけた。彼は他の男子と楽しそうに会話している。あの笑顔、彼が誰かと話しているのを見ると、心の中に小さな不安が芽生える。


「西園寺さん、今日もテストの点数すごかったね!」


その声に反応して、私は微笑みながら答える。


「ありがとう。でも、ちょっとしたことよ。もっと頑張らないとね。」


みんなが私に話しかけてくる。嬉しいことだけど、心の奥でひっかかるものがあった。みんなの期待に応えなきゃいけない、でも陽介に対してはもっと特別でいたい、そんな気持ちが強くなる。彼のことを、他の誰にも渡したくない。


「ねえ、西園寺さん、週末の映画、一緒に行こうよ!」


「いいわよ。楽しみにしてるね。」


私はにっこり笑って、みんなに応じる。誰にでも優しく、誰にでも微笑んで。完璧な西園寺美月として振舞う。でも、本当はただ一人、陽介だけを見ていたい。彼が私を見てくれることが、私にとっての全てだから。


その時、陽介の姿が目に入った。彼が他の男子と話している姿。普通に笑っているけれど、なんだか心の中で引っかかる。私は少しだけ視線をそらし、何気なく言葉を発する。


「陽介、帰りに一緒に帰ろう?」


言葉が出た瞬間、心が少しだけ落ち着く。陽介が私に微笑んでくれるのを見た時、全てが安堵に変わる。誰もが私を見て、優しく接してくれる。でも、陽介にだけは私の特別な気持ちを見せたい。彼の目に私だけが映るように、ずっと、ずっと一緒にいたい。


「うん、いいよ。」


陽介の言葉に、私は思わず心の中でほっと息を吐く。ああ、これで安心だわ。教室を出るその一歩が、私たち二人だけの世界への入り口のように感じる。陽介の微笑みが私の心を軽くして、そして強くする。彼が他の誰にも目を向けることなく、私だけを見てくれることを、心の中で強く願っている。


そして、私たちが教室を出るその瞬間、陽介が最後に一度私の顔を見つめる。その目に、私は一瞬だけでもいい、彼の心が私にだけ向けられていることを確信できる。


陽介の家に着くと、少しだけ緊張が解ける。いつも通りの穏やかな空気が流れるこの場所が、私にとっての安らぎの場所になっている。


「おかえり、陽介。」


私は彼を迎えるために玄関で待っていた。陽介の帰りを心待ちにしていたから、思わず笑顔を浮かべてしまう。彼が帰ってくる瞬間を、私はいつも楽しみにしているんだ。


「ただいま、美月。」


陽介の言葉に、私はふっと安堵の息を吐いた。彼の帰りを待つのが当たり前のようになっている。いつも一緒にいることが、どんどん特別なことになっていく。陽介が帰ってくるたびに、私の心はさらに彼に引き寄せられていく。


「今日は誰かと話してたでしょ?」


私は何気なく、でも少しだけ鋭い質問を口にする。陽介が他の誰かと話しているのを見ると、どうしても不安が湧いてしまう。彼が他の人と楽しそうにしていると、私がどれだけ彼を大切に思っていても、心が落ち着かなくなる。だから、彼にどうしても確認したかった。


「え?いや、誰とも…」


陽介が慌てて否定する。その顔が少しだけ焦っているのが分かる。でも、私の目はそんなことじゃ騙されない。少しだけ彼を見つめてから、私はその手を取って近づく。


「陽介、私はあんまり他の人と話してほしくないの。私だけを見ていて欲しいんだ。」


その言葉を口にした瞬間、胸が締め付けられるような気持ちが広がる。陽介に対する独占欲が強くなる。彼が私だけを見てくれることが、私の唯一の望みだから。私が何も言わなくても、彼には私だけを見ていて欲しいと、心の中で強く感じる。


「だって…」


陽介が少し言いかけるけれど、私は彼の顔に手を添えて、ぐっと近づく。彼の顔がすぐそこにあって、その温かさを感じる。私の手が彼の顔を包み込むと、陽介は少し驚いたような表情を浮かべるけれど、それもまた私の心を揺さぶる。


「だって、あなたは私のものだから。」


その言葉が自然に口をついて出る。私が陽介をどれだけ愛しているのか、それが彼に伝わるといいなと思う。そして、私が感じる愛情がただの優しさに留まらず、強い執着に変わっていくのを、私ははっきりと感じていた。


「美月、わかってるよ。俺はお前だけを見てる。」


その言葉を聞いた瞬間、私の心はふっと軽くなった。しかし、陽介が言ったその言葉が私を安心させる一方で、心のどこかで満足しきれない気持ちが湧き上がる。どうして、私はこんなにも彼に依存しているのだろう?でも、それが悪いことだとは思わない。彼が私だけを見てくれる限り、それで十分だと思っている。


「よかった…」


私は陽介を強く抱きしめた。その力が少し強すぎて、陽介が少し息苦しそうに感じているのがわかる。でも、私はそれを気にしなかった。彼を抱きしめることが、私にとってはとても自然なことだから。


彼が私を見てくれること、それが私の世界を全てを支えている。それだけで、私は幸せを感じる。

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秘密の恋は、誰も知らない場所で 青藍 @senrann

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