秘密の恋は、誰も知らない場所で

青藍

秘密の恋は、誰も知らない場所で

僕、篠原陽介(しのはら ようすけ)は、普通の学生だ。クラスでも目立つことなく、ひっそりと過ごしている。でも、僕には一つだけ特別な存在がいる。それが、西園寺美月(さいおんじ みつき)だ。


美月は、学校中で誰もが憧れる存在。成績優秀、スポーツ万能、そして、誰にでも優しい。周りからは完璧な人だと思われているけど、僕は違う。彼女は、僕と付き合っている。そして、僕たちの関係は、誰にも言っていない、秘密のものだ。


最初はただの偶然だった。ある日、放課後に二人きりになった時、彼女が急に告白してきたんだ。どうしても僕に自分の気持ちを伝えたくて、他の誰にも言わないって約束で。でも、正直言うと、その時はびっくりして、どうしていいか分からなかった。だって、彼女みたいな完璧な人が、僕みたいな平凡な男に告白してくれるなんて想像すらしていなかったから。


放課後、教室は賑やかだった。生徒たちはそれぞれ帰宅の準備をしている中、美月はクラスの中心に立ち、周りの男子や女子と楽しそうに話している。その笑顔はまるで太陽のように周囲を照らし、誰もが彼女に注目していた。


「西園寺さん、今日もテストの点数すごかったね!」


「ありがとう。でも、ちょっとしたことよ。もっと頑張らないとね。」


周りの男子が目を輝かせて言うと、美月は微笑みながら軽く頭を下げた。その姿は、まるで女神のようだった。完璧な容姿、優れた学力、誰にでも優しい対応。まさに、クラスのアイドルと言っても過言ではない。


「ねえ、西園寺さん、週末の映画、一緒に行こうよ!」


「いいわよ。楽しみにしてるね。」


周囲の男子が次々と声をかけてくるが、美月はそれに快く応じる。誰にでも優しく、どこまでも気配りができる美月は、クラスで一番人気がある。僕もその一員だということは、間違いなく誇りに思っていた。


でも、心の中で少しだけ違和感を感じていた。彼女があんなにみんなに人気があって、みんなに優しく接する姿を見ていると、なんだか自分だけが特別な存在であることに不安を感じてしまう。それでも、彼女が僕に向ける優しさは、確かに他の誰にもないものだと分かっているから、僕はそれに甘んじるしかなかった。


その時、ふと、美月が僕を見つけて微笑みかけてきた。彼女の視線に、少しだけ鋭さを感じた気がしたが、すぐに普通の微笑みに戻る。


「陽介、帰りに一緒に帰ろう?」


「うん、いいよ。」


僕はその提案に答え、少しだけ心が安堵する。教室ではいつものように、クールで優雅な美月が、僕にだけは特別に微笑みかけてくれる。彼女の完璧さに安心し、僕はその微笑みに背中を押されるようにして教室を後にした。


家に着くと、静寂が広がる中で美月の姿が目に入った。普段、僕が帰るとすぐに何かしらの音がしていたはずなのに、今はただただ静かな空間が広がっている。その中で、美月が僕をじっと見つめていた。


「おかえり、陽介。」


その声は、いつも通り優しく、甘く響くけれど、どこか異なる感情が込められているように感じた。少し緊張して、僕は答えた。


「ただいま、美月。」


美月はゆっくりと僕に近づいてきて、すぐに僕の肩に手を置いた。その手のひらは冷たくて、しっとりとした感触があり、まるで僕を包み込むように感じられた。


「今日は誰かと話してたでしょ?」


その一言に、僕は驚きのあまり、思わず後ずさりしそうになる。美月は普段、誰とでも笑顔で接しているはずなのに、この時は何かが違った。彼女の目が、いつもと違って冷たく、鋭く感じられる。


「え?いや、誰とも…」


言葉を選びながら答える僕に、美月はじっと目を見開いて、言葉を続けた。


「陽介、私がいない時に他の誰かと話すなんて、許さないよ?」


その声は、普段の優しさとは裏腹に、どこか冷徹で怖さを孕んでいた。美月がこんなことを言うなんて思いもしなかった。でも、彼女の目が僕を捕らえて離さない。まるで、彼女のすべてが僕に注がれているような感覚だ。


「だって…」


言葉に詰まる僕に、彼女は突然近づいてきて、無言で僕の顔を両手で包み込んだ。彼女の手のひらが、温かくも冷たくも感じて、心臓が早鐘のように打つ。


「だって、あなたは私のものだから。」


その言葉は、甘く響きながらもどこか狂気じみた力を持っていた。美月の目はもう、愛情を越えて、僕を手に入れようとする強い意志に満ちているように見えた。


「美月…」


僕がその目を避けるようにして言うと、美月はますます僕に近づき、静かな声でささやいた。


「陽介、私だけを見てよね。他の誰にも目を向けるなんて、絶対に許さない。」


その言葉に、僕は自分の胸が重くなるのを感じた。美月の愛は、もはや単なる愛情だけではなく、執着と嫉妬に満ちている。それがどこか怖くて、でも、僕はどうしても彼女から離れられない。


「わかってる…俺はお前だけを見てる。」


その言葉が、彼女の心を少しだけ安堵させたのか、美月は柔らかく微笑んだ。その笑顔に、どれほどの重みが込められているのか、僕には理解できない。けれど、その笑顔に安堵の色が浮かんだ瞬間、彼女は突然、僕を強く抱きしめてきた。


「よかった…」


その言葉は、まるで安堵のため息のように聞こえた。でも、その力強さには、どこか危うさを感じる。美月が僕を抱きしめるその腕に、少しの不安と恐怖が入り混じった感覚を覚える。でも、それでも僕は彼女から逃げられない。


美月の腕の中で、僕はその感覚がますます強くなるのを感じながら、静かな夜の中で息をひそめた。




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