A stranger in snow mountain……
白い闇の中にぼんやりと浮かぶ灰色のシルエット。
吹雪の中、完全に迷ってしまった美香は必死の思いで叫んだ。
「助けて下さい! 吹雪で帰り道がわからないの」
「おや、それは大変だ。私が安全なところにお連れしよう」
やや低めの優しげな声と共に現れた人物の風体に、美香は呆然とした。
美香の必死の叫びに答えるように、白い壁のように立ちはだかる雪の中から現れたのは、長身の、おそらくは男性。
この雪山にはおよそ似つかわしくない黒いトレンチコート姿だ。
それだけならここまで驚きはしないのだが、風にはためくコートの裾から、チラチラと肌色が覗いている。まさかとは思うが、下には何も着ていないのだろうか?
極めつけはその頭だ。
顔の大半を覆うように、すっぽりと黒い布地をかぶっている。しかも蛍光ピンク色の象のイラスト付き。
左右に穴の開いたその独特の形状は間違いなく……
「ぱ、ぱんつ……?」
そう、どこからどう見ても男性用のブリーフである。
「へ、変態……っ!?」
あらゆる理解を拒む非現実的な存在に、美香の意識は白い闇へと飲まれて行った。
次に意識が浮上した時、美香が感じたのは吹雪の冷たさではなく、心地よい温もりであった。
「……あたたかい。さっきのは夢だったのかしら?」
思わず零れた呟きは、丸太を組んだ天井に吸い込まれていく。
後に残るは、暖炉でぱちぱちと火のはぜる音のみ。
美香が寝起きのぼんやりとした意識のまま半身を起こすと、寝かされていた大きなソファから黒いトレンチコートがぱさりと落ちた。
どうやら温もりの正体はこれだったらしい。
(このトレンチコート……ということは、さっきのは夢か幻じゃなくて本当に??)
「やぁ、目が覚めたかい?」
「ひ、ひゃあっ!?」
すぐ傍らで聞こえた声に、美香は飛び上がりそうになった。
この優しげな声は、たしか……
「驚かせてごめん。いきなり気絶したから心配したよ」
「きぜつ……?」
美香を案じてくれる低く柔らかな声は耳に心地よい。穏やかで品の良い話し方に、不安と緊張がとけていくようだ。
しかし、吹雪の中で目にしたものが幻覚や見間違いでなかったとするならば、彼の今の格好は……
視界の隅をよぎった肌色に、そこまで思い至った美香はあわてて顔を背け、そちらを見ないようにして固まってしまった。
顔がかぁっと熱を持っていて、鏡を見なくても真っ赤になっているのがよくわかる。
――どうしよう、助けてもらったみたいだけど……
あまりの非常事態……いや、非常識な事態に、美香は半ばパニック状態で固まってしまった。
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