This year, I……

 三日後の今日はクリスマスイブ。

 予定では智也とスキー旅行で甘い時間を過ごすはずだったが……今更あんな男と一緒に来る気にはなれない。

 かといって直前でキャンセルしてキャンセル料を払うのも腹立たしい。


 結局、智也の分だけキャンセルして、一人で傷心旅行としゃれこむことにしたのだ。


――あんな奴の浮気なんてどうってことない。もっといい男を見つけてやる。


 そんな強がりを自分に言い聞かせて。


 しかし、いちゃつくカップルだらけのゲレンデは、想定外に美香の精神をえぐるもので……

 夜行バスを降りた美香はさっそく後悔していた。


「けちけちせずに、旅行はキャンセルすればよかった。傷心旅行なら、どこか別のカップルの来そうにないところでも良かったのに」


 今更ぼやいても始まらない。

 美香はさっさと宿に荷物を預けると、スキーウエアに着替えてゲレンデに繰り出した。

 ゲレンデでもいたるところにいちゃつくカップルの姿。 

 さざめく笑い声から逃げるように、美香はすさまじい勢いで白銀の世界を滑り降りた。


 雪国生まれの美香は、スキーの腕なら自信がある。

 高校時代は県大会にも出たことがあるくらいだ。

 人の姿が見えない方向を選んで思いのままに滑っていると、風を切る感覚が心地よい。

 次第に人の声は遠くなり、びゅうびゅうと耳元で風の鳴る音だけだ。

 心地よい疲れに気分もすっきりして、ふと我に返ると、周囲にはまったく人の姿がなくなっていた。


「ここ、どこ?」


 わずかに不安を帯びた美香の声にこたえるように、空には急速に雲が湧き出している。


「やだ、いきなり暗くなってきた」


 山の天気は変わりやすい。

「風も強くなってきたから、吹雪になるかも。すぐに戻らなくちゃ」



 焦る気持ちとは裏腹に、行けども行けども人の姿がない。


「やだ、どっちに行けばいいの?」


 焦れば焦るほど道が分からなくなっていく。


 半ばパニック状態で必死に動き回ることしばし。

 風は次第に強くなり、巻き上げられた雪が視界を覆う。白銀に輝く粉雪は次第に厚みと重みのある灰色の雪になり……


「やだ、あたし遭難しちゃった……」


 涙まじりにぼやいた声が、白に覆われた世界にじんわりと滲んだかと思うと……


「おや、こんな所にお客様かい?」


 場違いに朗らかな声が耳に届いた。

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