白銀世界のサタンクロース
歌川ピロシキ
I gave you my heart, but you ……
ちらちらと舞う粉雪が冬の日差しにキラキラと輝いている。
そこここに上がる楽し気な男女の笑い声。周囲の木立には赤と金の装飾が施され、クリスマスムードを盛り上げている。
「いいなぁ、みんな楽しそう」
カップルであふれかえるゲレンデを見やって、美香は恨めし気に息をついた。
おりしも上がる、甲高い女性の笑い声。蛍光ピンクのウェアを着た女性が、長身の男性の腕にしがみつくようにしてこちらを見ている。
かすかに媚びを帯びた甘ったるい声は、ひとりぼっちの美香を嘲笑うかのようだ。
「だめ、そんなこと考えちゃ」
慌てて頭を振って、被害妄想じみた考えを脳内から追い出した。
「たまたまこっちを向いてただけ……誰も私のことなんか見てるわけないもの」
自分で自分に言い聞かせ、余計にみじめになってしまった。
ことの始めは三日前。
一日早く終わった出張の帰り道、くたびれきってたどりついた東京駅で見てしまったのだ。彼氏……いや、元彼の智也が派手な女の子と腕を組んでホームにいるのを。
「ミレナリオ、超きれーだったね! いつもありがとぉ!!」
高校生くらいだろうか? 智也にしなだれかかり、甘い声を出す少女は、呆然と立ち尽くす美香をあごで指すとケラケラと笑った。
「何、あのオバサン。さっきからこっちガン見しててキモイんですけどぉ」
慌てて振り返った智也の凍り付いた表情。勝ち誇った少女の顔と対照的だ。
「み、美香!? 出張は明日までじゃなかったのか!?」
うろたえ切った早口が、一度二度の浮気でないことを物語っている。
「ごめん、ちょっとした出来心なんだ……っ!」
裏返った声を振り切るように、ちょうどホームに入ってきた電車に飛び乗ると、美香はスマホを取り出し智也の連絡先をブロックした。
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