悪役

微風 豪志

悪役


デリカシーは死んだ。

それでもまだ彼女は踊り続けていた。

氷をなぞりながら削る音と泣きながら声を殺して静かに滑る彼女に思わず私は声をかけた。

「今日の失敗は酷かったです」

私の声を聞いて思い切り肩を跳ね上げて振り返り、彼女は私の元へと滑ってくる。

「次は失敗しません」

「次の機会があるかなんてわからない中でその発言はよほど反省してないんじゃないかって思うけど」

ごめんね、あえてひどい言い方をしている。

今日の予選は他にもっとできることがあったはずだしこの厳しさはあなたへの期待とライバルに比べて手を抜いたあなたへのささやかな罰の意味を含んでいた。

「慰めてくれるところじゃないんですか?」

「あなたがベストを尽くしたなら今日よりも酷い公演をしたって褒めていたわ」

「それにしたって傷心した生徒にかける言葉にしては不適切だと思います」

「それがわかれば十分よ、後は意味を考えなさいどうしてこの人はこんな言葉を使ったんだろうって、常に相手に感心と敬意を払いなさい。たとえそれがあなたの一番嫌いな人にだとしても、むしろそうゆう人の方が学ぶことは多いと私は思うけど」

あなたの中で私のせいにしたっていいから、まだこの場所に咲いていて欲しかった。

だから私もデリカシーを捨てた。

無色透明のガスを避けて進むか踏まれていないアスファルトを探して踏み抜くことそれから人付き合いどれが一番難易度が高いだろう?

答えは簡単で、私の見解では考えるだけ無駄なくらい同列で難しい。

「スケートやめます」

「そっか...」

「何か最後に言うべきこととかないんですか?」

「あなたがそう決めたなら」

「...今までお世話になりました」

緩やかに、されど確実に後悔をする選択肢が目の前に迫っていた。

けれど彼女の成長にはこうゆう厳しさも大切だと思ったから、今の所はこれでいいのよ、あなたが次の場所で大輪を咲かせる様に。

「今後の活躍に期待しているわね」

嫌味に聞こえていなければいいけど、きっと私は悪役ね。

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悪役 微風 豪志 @tokumei_kibou_tokumei

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