物知らずな魔法使いと海に溶けゆく人魚姫

雪月すず猫

第1話

アリシアM:私は命懸けで百年の歳月をかけて、エルフ族の魔法使い、ソルウェン様と出会い、世界を旅することにしました。

アリシア:「ソルウェン様、熱した鍋は熱いから素手で持ってはなりません!」

ソルウェン:「ああ、すまない、アリシア。魔法の炎なら素手で触っても大丈夫だが、物を通した時は火傷をしてしまうんだね」

アリシア:「私が机まで持っていきますから、ソルウェン様は座っていて待ってください…あの、捨てられた子犬のような目をしても…駄目ですよ?」

ソルウェン:「アリシアに、重いものを持たせてのうのうと、自分だけ座っているのは、嫌だな」

アリシア:「嫌だな、と、言われましても…貴方が火傷を負うのは、私も嫌です」

ソルウェン:「アリシア…、優しいね。愛してる(額にキス…リップ音どうぞ)」

アリシア:「…!あ、あの、もう…。え!鍋を持ったら!」

0:ソルウェン、素手で鍋を掴んで食卓へ運ぶ。

ソルウェン:「大丈夫だよ、氷魔法で手を冷やしているから」

0:悪びれもなく笑うソルウェン、アリシアはがっくりと肩を落とす。

アリシア:「な、鍋つかみというものがあるんですよ…ソルウェン様、魔法を使いすぎです」

ソルウェン:「仕方ないよ、私は魔法使いだからね」

アリシア:「…魔法は、便利かもしれませんが、ソルウェン様の体のご負担になってないか、私は心配なのですよ…」

0:ソルウェン、目をぱちくりさせてから笑い出す(吹き出してください)

アリシア:「!なんで笑うのですか?」

ソルウェン:「魔法は私には、息を吸うくらい簡単なことなんだよ…でも、やっぱり私はアリシア…貴女が好きだな、今までは、誰もが私が魔法を使うのは当然で、私の負担なんて思いつきもしなかったからね。当の本人の私でさえ…」

0:ソルウェン、アリシアの髪にそっとキスを落として(軽く、リップ音)

ソルウェン:「今日も、ずっと貴女を抱きしめて眠って良いかな?」

アリシア:「…、ソルウェン様は甘えん坊ですね」

ソルウェン:「うん、貴女に対してだけは、ね」

アリシア:「ずるいのですから!…はい」

ソルウェンM:照れた顔のアリシアはとても可愛らしく頬と首筋まで薔薇色に染めていて、食べてしまいたくなった。

0:場面変わって。2人で深夜、眠っている

アリシア:「ん…、お母様!…」

:―――アリシアは、ポロポロと涙を流しながら飛び起きる

ソルウェン:「どうしたんだい?アリシア?恐い夢でも見たの?」

アリシア:「…、海が呼んでいる…」

ソルウェン:「アリシア!?どこへ行くの?」

:アリシアは立ち上がって、ふらふらと誘われるように、家を出て、家の近くの海へと向かい、海の中に入ろうとするのをソルウェンが腕を掴んで止める

ソルウェン:「アリシア!駄目だ、行ったら駄目だ」

0:感情の籠らない声で伝えるアリシア

アリシア:「…だめ、だめなの、ソルウェン様、私は…戻らないと…」

0:感情が戻り苦しそうなアリシア

アリシア:「うう…ソルウェン…様…苦しい…助けて…」

ソルウェン:「アリシア!」

ソルウェンM:意識を失ったアリシアを抱き抱えて家へ向かい、ベッドにそっと横たわらせる。青白いアリシアの顔色に、顔を歪ませながら、一定の寝息をするアリシアの頭を撫でた。

ソルウェン:「ああ、ちゃんと寝てる…人魚の姫は…寿命を迎えると海に溶けて全ての母の一部となる…、こんなに早く…寿命がきてしまうとは…」

0:アリシア、目を覚ます

アリシア:「…ん…ソルウェン様?」

ソルウェン:「アリシア…ちゃんと結婚しよう。」

アリシア:「え…でも、私はもう…。ああ、お母様が呼んでいる…」

ソルウェン:「アリシア!私は誰にも貴女を渡したくない!自然の摂理に反しても」

0:―――ソルウェン、アリシアの唇を塞ぐ(ソルウェン、激しめにリップ音を)

アリシア:「んんっ!」

アリシアM:その日、私はソルウェン様の花嫁になりました。全身がぴりぴりして、苦痛と嬉しさとないまぜになった感覚を味わいながら、私は人魚姫ではなく、ソルウェン様の、エルフの花嫁になりました。

アリシアM:

アリシアM:海を見ても懐かしさを感じる事はできましたが、身近に感じることはなくなりました。

ソルウェンM:アリシアの性質を自分の欲で変えてしまった。アリシアを失いたくない一心で、彼女が、エルフとして生きていく為に、あらゆることから彼女を守ろうと私は、命を賭(と)そうと思った。

ソルウェンM:

ソルウェンM:海を眺めて寂しげに目を伏せる彼女をそっと抱き寄せ、彼女の寂しさを癒すべく歌を歌い、彼女を寝かしつける…何年か繰り返して彼女はまた、無邪気に私に笑いかけてくれるようになった。

アリシア:「ソルウェン様、また魔法使いましたね!?」

ソルウェン:「ふふ…、私は魔法使いだからね。アリシア、心配してくれてありがとう(キス、リップ音)」

アリシア:「心配は一生しますよ!」

ソルウェンM:無邪気に真っ直ぐに陰りなく、笑顔で告げる彼女に、私は幸せな笑みが零れた。

ソルウェンM:

ソルウェンM:これは、人魚姫を愛した魔法使いの幸せな物語。

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