第4話 三日目
午後6時。待ち合わせの橋に行くとハル君はいた。
大人の女が少年を連れまわして大丈夫だろうかと気になったが、
ハル君は親は知っているから心配ないと言っている。
辺りはまだ少し明るいが、だんだんと薄暗くなり何だかもの悲しい気持ちになったきた。
手を繋ぎながら、蛍がよく見える川の方へ歩いていった。
「ここだよ、ナッちゃん。この辺で蛍が見れるよ。」
「私、蛍を見るの初めて。ここには8月の夏休みにしか
来てなかったから。」
「じゃ、僕との初めての蛍だね。」
川の近くに座り、辺りが暗くなるのを待った。
澄んだ空気と静かに流れる川は心が落ち着く。
今住んでいる所はスマホやパソコンやゲームや色々な娯楽に
溢れている。
仕事もあり、お給料で欲しい物が買える。
楽しい事はあるけれど、いつも空虚感を抱いている。
けれど、こんな何もない所で温かさを感じている。
いや、何にもないのではない。
あるべきものを失っていないのかもしれない。
この少年と一緒に川を眺めている事がとても有意義だ。
辺りが暗くなってきたころ、小さな丸い光がゆらゆらと飛んだ。
だんだんと、たくさんの光が舞いだした。
「わぁ、キレイ。今まで見た景色の中で一番。ありがとう、ハル君」
「僕もこんなキレイなの初めてだ。ナッちゃんと来れて良かった。」
知らない間に涙が流れていた。本当に感動し心が喜んでいる。
「ナッちゃん、泣いてるの?」
「うん。だってすごく美しすぎて。」
ハル君はとびきりの笑顔を見せてくれた。
川の音と虫の声しかしない静かな空間。
空に星と満月が輝き、まるで別世界にいるかのようだった。
しばらく二人で眺めていた。
そろそろ帰ろうという事になり家路に向かった。
「ハル君、今日は誘ってくれてありがとう。今度お礼させてね。」
「ナッちゃん、僕の方こそありがとう。一緒に見れて嬉しかった。
約束だったし。」
「約束?うん約束だね。」
夜も遅いのでハル君の家まで送ると言ったが、近いので大丈夫と
断られた。
待ち合わせの橋から、お互い反対方向に進んでいった。
ふと振り返るとハル君はもういない。
明日には実家に戻るので、ちゃんと連絡先を聞いておけば良かった。
狭い町だし近くの子だから祖母に聞けば分かるだろう。
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