第2話 一日目

初対面の大人に気軽に声をかけてきた少年。

私が子供の頃だったら絶対に無理だ。


「ねぇ、お姉さん。何をしていたの?」

「川が綺麗だなと思って見ていたんだけどね。」

「じゃ、もっと綺麗な所があるんだ。こっちだよ。」

と言って手を引かれた。


手を引かれるまま山林の中へ入っていった。

おそらく観光客は行かない所だろう。

5分ほど歩いて山林を抜けると目の前に美しい湖が広がっている。

「わぁ、すごい!キレイ!」

思わず声に出して驚いた。

「ここは、とっておきの場所なんだ。お姉さんだけだよ。」

「どうして私だけ?」

「なんでだろ。わかんない。」

と笑って少年は答えた。

こんな所に湖があったなんて知らなかった。

帰ったら祖母に聞いてみよう。


「ねぇ、君の名前聞いていい?」

「僕はハルキ。」

「ハルキ君か。じゃ、ハル君だね。」

「お姉さんの名前は?」

「私はナツ。」

「じゃ、ナッちゃんだ。」

なぜか二人で一緒に笑った。なんだか面白くて楽しい。


「お姉さん、やっと笑ったね。」

「え???」

「川を覗きこんでいる時、悲しそうな寂しそうな顔だったから。」

こんな子供に心配されるなんてとビックリした。

「ありがとう。今は楽しいよ。」

「僕も、ナッちゃんが笑ってくれて嬉しい。」

「こらっ、大人をからかって~」とハル君の肩を軽くはたいた。

ハル君の体はふわっと軽く、飛んでいってしまいそうだった。


ハル君は12歳で、小学校の話や釣りが好きな事など聞いた。

そして私も祖父母の事や仕事の話など、自分はヤル気がなくてダメな社員だと

子供に話してどうするというような会話をした。

「僕は釣りが大好きでメチャクチャ頑張るよ。

魚がいっぱい捕れた時、お母さんがすごく喜ぶんだ。

ナッちゃんも好きな事だと必死になるよ。」


その時、はっとした。好きなこと、、、か、、、

趣味と仕事は別の事と割り切っていたけれど、好きな事じたいが

何なのか考えるのを忘れている。


私達は明日も出会った場所で会う約束をして別れた。

今日はとても清々しいしい気分だ。



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