約束のナツ

千莉々

第1話 少年との出会い

ここは昔と全く変わっていない。

山と川と澄んだ空気。

祖父の三回忌法要の為、久しぶりにこの町にやってきた。

膵臓癌を患い、入院後あっという間に亡くなってしまった祖父。

もっと早く病院へ連れて行けばよかったと、祖母は今でも

悔やんでいる。

もの静かで少し頑固だったけれど、優しい人だった。

一番思い浮かぶのは、一緒に犬の散歩をした事だ。

祖父によく懐いた茶色い可愛い雑種だった。

その犬も5年前に死んでしまった。


子供の頃、夏休みになると母と祖父母の家に来て2週間ほど

過ごしていた。

小学6年生からは、年末年始に訪れるくらいになった。


夏休み、ここで何をして過ごしていたのかあまり覚えていない。

けれど、何にもないのに毎日が楽しかったように思う。


あの頃は、自分が大人になるなんて想像もしていなかった。

現在、24歳になったけれど思い描いていた大人になれているか疑問だ。

大学を出て、現在は食品会社に入り経理事務をしている。

仕事はそれなりに忙しいが、自分以外の人でもいいと思える。

かわりはいくらでもいる。

自分の仕事をこなし給料さえ貰えればいいという感じだ。

経営者からは、やる気を感じられない社員にうつるだろう。


このまま、ただ時間に流されて生きていくのだろう。

でも、楽しくない、つまらないと感じている。

そんな自分が嫌だった。


三回忌法要が終わり、親戚達は会食をしながら祖父の話や

子供頃の話など昔話で盛り上がっている。


会食が終わったので、少し散歩に行ってくると母に告げ、

山道のある方へ歩いていった。


川沿いを歩き、吊り橋を渡り山林の遊歩道を進んでいった。

本当に木の緑や川が綺麗な所だ。

岩場から澄んだ川を眺めていた。


「そんなに覗き込むと滑って危ないよ。」

振り返ると小学生くらいの少年がいた。

「あ、ホントだね。落ちたら大変だわ。」

「実は、僕は一度落っこちたよ。」

と笑いながら話してきた。









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