第11話、殺人鬼ゲイリー
早く逃げなければ!
しかしどこに向かえば?
そして辺りを確認しようとして気づく。シンジが既に、正面に向かって走り始めている事に。
迷わず通路を走るシンジの姿は、今もなお行動を起こさずに思考を巡らす俺たちからどんどんと遠退いていっている。
そこで俺はソラの手を引いた、シンジの後を追随するため。
走りながら首だけ振り向くと、先程まで俺が立っていた場所の背面の壁には扉があり、そこにリーゼントとツレの女がどうしたら良いのかキョロキョロと戸惑い、しまいにはドアノブに手をかけたりしている。
俺たちは目が覚めた時、どうやらL時になっている通路の角の部分にいたらしい。
そしてあそこに見える扉は間違いなくスタート地点であり脱出口である。つまりあの扉が開くのは、宝玉を持ったプレイヤーが直接握りクリアをする時か、スタートから30分が経過しリタイアウエルカムになった時だけである。
リーゼントたちは扉を開ける事をやっと諦め、左の通路を気にしながらこちらへと走り始めた。
しかしシンジの野郎、涼しい顔をしながらやってくれやがった。
リーゼントたちはスタート直後である今の反応で、このゲームを肝試し感覚でしに来た初心者である事が十分過ぎる程わかった。
しかし前を走るシンジ、奴が初心者かどうかはわからないがこのステージを一度プレイした事がある経験者である事は間違いない。
経験者、そうであるにも関わらずわざと初心者を装い俺たちに近づいた。
なんのためか?
一つ考えられる事は自分の危険を減らすために、スタート地点で犠牲となる身代わり——初心者——を探していたのだ。
そうでなければ、事前に色々と教えてくれ、スタート直後も迷わず前へ走るよう忠告してくれていたはず。
先を行くシンジが、この一本道の先にある扉を開け入っていく。
遅れて俺とソラもその扉を通ると、下へと続くかね折り階段をカンカンカンと降りていく。
階段は下の階で終わっており、ちょうど上の階の扉の真下に扉が設置されていた。そこを開けると上と同じような長い直線の一本道が伸びており、一番奥には扉が見える。
そしてシンジがこの通路の半分、俺たちが四分の一くらいまで行ったあたりで、リーゼントたちが階段を下りてくる音が聞こえ出した。
そしてすぐに、ゲイリーであろう一際大きな音も続く。
リーゼントたちが追いつかれる!
ゲイリーの足は普通に早い!
そして俺たちの階に飛び出してきたリーゼント、その手を引かれ続く女、そのすぐ後ろには巨大な人影とざんばら髪が闇に浮かび上がる!
そして青みを帯びた冷たい光が横へと流れる。その陰——ゲイリー——が手にしている鉈を横に振ったのだ。
しかしそのゲイリーの動作と同時に、リーゼントは繋ぐ手を強く引っ張っていたため女は前屈みになっていた。
そのお陰で女の首筋を狙っていた鉈の一撃は、彼女の頭上を通り過ぎていった。
そこでべちゃっと何かが落ちる音がした。
続けて上がる女の悲痛な叫び。
女の頭頂部にあるはずの頭皮が、長い髪の毛を生やしたまま女の足元に移動していたのだ。
そのため女の頭頂部には河童のような白いものが見えている。
髪の毛ではない、赤いものが女の額を伝い顔全体にダラダラと伸びてくる。
リーゼントはそれを見るや否や、女の手を振りほどき我先に駆け出した。
女はそんなリーゼントの背中に泣きながら救いの手を伸ばし、ヨタヨタと前進を開始する。
そのすぐ後ろでは、弱った獲物を仕留めるべく仁王立ちのゲイリー。
そして再度煌めいた冷たい光の後、女の首は体から切り離された。
俺はシンジに続いて通路の先の扉を開く。
すると異様な光景と異臭が出迎えてくれた。
よくテレビとかで紹介される食肉加工工場の風景で、豚や牛の肉を冷凍保存設備が完備された部屋に吊るしているのを目にするが、この部屋では家畜の代わりに人間が逆さに吊るされていた。
あちらは冷凍保存されているが、こちらは常温保存。肉は腐っており、床には夥しい落ちた肉や赤黒い液体が広がっている。
どうやらここは大きなホールのような部屋のようだが、吊るされている死体をまるで部屋の壁のようにして並べており、そうやって出来たスペースの真ん中に白色球をぶら下がっているため、ここが区切られた一つの部屋のような雰囲気を醸し出している。
ゲイリーに相応しい狂った空間である。
見ればキィキィ音を立て死体が揺れている場所を見つける、これはシンジが通った後だ!
あいつはこのステージの事を知っている。つまりこの先に宝玉がある可能性が高い。
ポケットからMAPを取り出し確認してみると、宝玉の点滅もそちらの方を指し示している。
やっぱり!
「こっちだ! 」
ソラの手を引き、逆さに吊るされた人の腐乱死体を押し退け急ぐ。
念のため途中途中MAPを見ながら揺れる死体の先を追っていると、途中から宝玉の点滅から外れた方向へ向かい始め出した。
どういう事だ?
疑問に思いながらも進んでいくと、ある区切られた空間に出た。
視線を落とせば、最初にゲイリーが手にしていた顔が潰された少年の死体が床に横たわっている。見上げると天井に穴もある。
ここはあの井戸のような穴の真下になるようだが。
そしてこちらに背を向けしゃがみ込むシンジの姿を捉えた。
何をしているんだ?
シンジは幾つも並ぶ棺桶ぐらいの大きさの木箱に向かい、黙々と何かをしているようだが。
近くまで進み覗いてみると、シンジは木箱と蓋の隙間にバールを突っ込むと、打ち付けられている釘をテコの原理で抜いていっていた。そして僅かに出来た隙間から中を覗くと別の木箱に移る。
「何をしているんだ!? 」
シンジは一心不乱に作業をしており、こちらには見向きもしない。
『ぎぃゃーー』
そこで男の悲鳴が近くで上がった。
あれはリーゼントの声だ。
その後、『助けてくれ』を悲鳴の合間に入れ叫び続けている。
ソラが堪らず耳を抑えしゃがみ込む。
くそっ、シンジから話しを聞き出す時間が惜しい。
この先に宝玉があるはず!
まずはそれを確保しないと!
「いくぞソラ! 」
無理矢理ソラを立ち上がらせMAPを頼りに死体を分け進んで行く。すると棚が置かれている異様な空間に出た。
その棚の上には多くの透明な瓶があるが、その中には目玉だけを集めたものや男性器だけを集めたものなどが並んでおり、ざっと見た感じ各瓶へ人間のパーツを分けて入れているようだ。
方角を合わせMAPを見てみると、反応はそこからではない。棚から少し離れた所にある、折り重なるようにして小山になっている死体の山から。
そこにあるのか!
俺はバールをその場に捨てMAPを見える場所に置くと、両手を使い死体の山を掘っていく。
この中にあるんだ!
肘まで真っ赤に染めながら作業をしていると、ソラも泣きながら隣で膝をつき素手で山を掘り始めた。
リーゼントの声が『殺してくれ』に変わる中、黙々と作業を続けていく。
「あっ、お兄ちゃん! 」
そしていつの間にかリーゼントの声が聞こえなくなっていた頃、ソラが死体の胸部から宝玉を探り当てた。
よし、ついにこのステージの宝玉を手に入れたぞ!
「よくやった! それはソラが大事に持って置くんだ! 」
ソラは黙って頷く。
あとは逃げるだけ!
そこで——
「ふははは、やった、やったぞ! 」
シンジの歓喜の声が届いた。
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