第2話 村にやってきた謎の美人
「よし、今日は平和に終わったな」
猪騒ぎから一夜明け、俺は村人たちの温かい(?)歓迎を受けて、農夫生活2日目を迎えていた。
畑で鍬を振るいながら、ようやく静かな生活が始まったことに安堵する。朝から鳥のさえずり、風に揺れる木々の音――こんな平穏を夢見ていたんだ。
だがその夢は、昼過ぎにはあっけなく崩れ去る。
「ライゼルさん、急いで!村の入口に旅の人が!」
村の少年が慌てた様子で駆け寄ってきた。旅の人?いや、この辺りは何もないド田舎だぞ。こんな村にわざわざ来る人間なんて――。
村の入口に向かうと、そこには一人の女性が立っていた。
長い銀髪が風に揺れ、深い青の瞳が印象的な美女だ。彼女は薄汚れたマントを羽織り、軽い荷物だけを持っているが、その佇まいにはどこか異質な雰囲気があった。
「失礼します。この村にしばらく滞在させていただきたいのですが……」
静かに語りかけるその声は澄んでいて、妙に耳に残る。村人たちは彼女を警戒している様子だったが、理由はすぐに分かった。
「な、なんだこの気配は……!」
彼女の背後には見えない圧力のようなものが漂っている。戦場で感じたことのある、「只者ではない」という感覚だ。
「お、お嬢さん、一体どちらから来たんだい?」
村長が少し震えた声で質問する。
彼女は微笑みながら答えた。
「私はイリーナ。旅の者です。辺境の村で少し休ませていただきたいと思いまして」
表向きは丁寧で穏やかだが、その微笑みの奥に隠された鋭さに俺は気づいた。
その後、村長の好意でイリーナは村に滞在することになった。彼女は旅人らしく、特に目立つ行動を取らない。村人たちとも最低限の挨拶を交わす程度だったが――なぜか頻繁に俺に絡んでくる。
「ライゼルさん、あなたこの村では新参者なのですよね?」
畑で作業をしている俺に、イリーナが話しかけてきた。
「まあ、そうだけど。普通の農夫だ」
俺は平静を装って答えるが、彼女はニヤリと微笑む。
「普通の農夫があんな猪を一撃で倒せるものなのですか?」
「……!」
心臓が跳ねる。やっぱり昨日の猪事件を見られていたのか!
「いや、あれは……運が良かっただけだよ。魔物が勝手に転んだんだ」
俺は必死にごまかしたが、彼女の目は鋭いままだった。
「そうですか。それにしては、畑仕事の仕方がどこか洗練されていますね。まるで、戦場で鍛えられた動きのように」
「…………」
この女、何者だ?ただの旅人じゃない。俺の過去を探りたがっているようにしか見えない。
その日の夜、俺は彼女の行動をこっそり観察することにした。村に着いた旅人が何をしているのか、確かめる必要がある。
彼女は村のはずれにある大きな木の下に立っていた。そして、誰もいないはずの空間に向かって話しかけている。
「報告します。ライゼル・グランデ、ここに確認しました。やはり彼は――」
その瞬間、俺の足元の小枝が折れる音がした。
「……!」
イリーナが振り向き、その視線が俺を捕えた。
「ライゼルさん。そんなところで何をしているのです?」
「いや、その……夜風に当たろうと思って……」
俺は動揺を隠せないまま答えた。彼女は俺に近づき、静かにこう言った。
「あなたの正体、もう少し聞かせてもらえませんか?」
やりすぎた男の余生は平穏に ~もう英雄とか呼ばないでくれ~ なちゅん @rikutui3
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