やりすぎた男の余生は平穏に ~もう英雄とか呼ばないでくれ~

なちゅん

第1話 英雄、隠居を目指す

「これ以上はムリだ……平和に生きさせてくれ……」


瓦礫の山の中、俺は薄れゆく意識の中で心の底からそう願った。

俺の名前はライゼル・グランデ。かつて「大陸最強の英雄」と呼ばれ、魔王を倒し、戦争を終結させた男だ。


――と言えば聞こえはいいが、実態は最悪だった。


魔王を倒した時に一緒に城が吹き飛び、周囲の村まで巻き込んだのはまだいい方だ。戦争を終わらせるために「少し派手にやりすぎた結果」山を削り、川の流れを変えた挙句、国一つの地図を書き換える羽目になった。


そんな俺がどうなったか?

英雄扱いなんてされるはずもなく、民衆からは「歩く災害」「存在が戦争」と呼ばれ、各国の要人たちからは恐れられて追われる身になった。


そして最後に、一部の勢力に捕まり処刑された――はずだった。


「なんで俺、生きてるんだ?」


気がつくと、俺はボロボロの服を着て見知らぬ田舎の村に立っていた。周りには緑の山々と小さな畑、そして数十軒の家。


「ここはどこだ?」


一瞬、自分が死後の世界に来たのかと思ったが、どうやらそうではない。近くにいた農夫が俺に気づき、声をかけてきた。


「おい、あんた、旅の人か?珍しいな、こんな村に来るなんて」


どうやらここはどこかの辺境の村らしい。大した文明もなく、静かで平和そのもの。


「……いい場所だな」


俺は直感した。この村なら誰も俺の過去を知らないだろうし、追っ手が来ることもない。ここでなら、俺の夢だった「平穏な生活」を送れるかもしれない。


そうして俺は、この村で“普通の農夫”として生きることを決めた。


幸い、村長は気のいい男で、訳ありそうな俺の話を深く詮索しなかった。村で一番ボロい小屋を貸してもらい、そこを住処にした。


「これからは本当に静かに暮らそう。もう力なんて使わないし、目立つことは絶対しない!」


自分にそう言い聞かせながら、俺は小屋の掃除を始めた。だが――。


翌日、俺は早速その誓いを破る羽目になった。


「ライゼルさん!大変だ、畑に魔物が出た!」


朝から大騒ぎする村人たち。聞けば、最近村を荒らしている魔物がまた現れたという。


「いや、俺に頼るなよ……」


俺は平凡な農夫として静かに暮らしたいだけだ。それなのに、村人たちは俺を引っ張って問題の畑まで連れて行く。


そこにいたのは、2メートル以上の大きな猪だった。体は硬そうな鱗に覆われ、口からは炎を吐いている。


「おいおい、普通の村にこんなの出るか?」


俺は思わず頭を抱えた。だが、村人たちは怯えた目で俺を見てくる。


「ライゼルさん……強そうだし、なんとかできませんか?」


「いやいや、俺はただの農夫だぞ!?」


だが、猪は俺を見つけるなり突進してきた。


「くそっ……仕方ない!」


俺は反射的に近くにあった木の棒を掴むと、全力で猪の頭に振り下ろした。


――ドガァン!!


棒が当たった瞬間、周囲の地面が砕け、猪はそのまま吹き飛んでいった。


村人たちは一瞬固まり、次の瞬間、歓声を上げた。


「すごい!ライゼルさん、ただ者じゃないぞ!」


「いやいや、これはただの事故だ!手が滑っただけで……」


俺の必死の弁解も虚しく、村人たちの中で「ライゼル=頼れる男」というイメージが定着してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る