転生者の孫もやっぱりチートでした〜受け継いだ力が規格外過ぎて青春(テンプレ)を謳歌できません〜

深海生

第1章 入学試験編

第1話 プロローグ

「我が孫、ハル・アークよ! お前にはこれより、王都の入学試験を受けてもらう!」


俺のじいちゃん、カオル・タチバナは両手を腰に置き、仁王立ちでいきなりそんなことを言い出した。


年齢はもう七十を過ぎるというのに、見た目は五十代と見紛うほど若々しい。


「もうカオル! 突然わけの分からないことを言って! しっかり説明しないと混乱するじゃない! ねぇ、私のかわいいハルちゃん?」


そういって俺に抱きつこうと後ろから飛びかかってくるのは、ばあちゃんのシルヴィア・タチバナだ。


エルフということもあり、ばあちゃんの見た目は二十代といったところだ。実年齢は千歳を超えているらしいが、以前それをうっかり口にしたじいちゃんが殺されかけていたから、ばあちゃんに年齢の話は禁物だ。


俺はもう小さい子供じゃないが、そんなことはお構いなしにこうして抱きついてくる。


とんでもないスピードで迫るばあちゃんの突進を、俺はさらりとかわした。


「ぐっ……!」


ばあちゃんはエプロンのすそを噛んで悔しそうにしている。これもいつものことだ。


って、こんなことしてる場合じゃない。王都で入学試験だって?


「ばあちゃんの言うとおりわけが分からない。どういうことだよ、じいちゃん?」

「よくぞ聞いた! 我が孫よ!」


芝居がかった口調で、じいちゃんが目をキラリと光らせる。


じいちゃんは普段もっと若々しい喋り方なのだが、重要な局面になるとなぜかこうした『威厳あふれる老人』を演じ出すのだ。


「ハルちゃん、いや、ハルよ。お前はこの山で育ちもう十五年が経つが、外のことをほとんど知らぬ。それではこの先一人で生きて行くことはできん。ゆえにまずは難関とされる王立学園の入学試験を突破せよ。そして学園で友を作り、勉学や修練に励み、一人前の男へと成長するのじゃあ!」

「はぁ? ……まったく、何言ってるのよカオル。 ハルちゃんは一生私達と暮らすんだから、そんな心配いらないわ!」


ばあちゃんがさも当然と言った様子で反論すると、「んなわけねぇだろ、ババア!」「ババアですって!? ブッ殺す!」と、なぜか老人同士の小競り合いが始まってしまった。


じいちゃんとばあちゃんは親代わりとして俺を育ててくれた恩人だ。


俺の実の親は小さい頃にあちらの世界へ行ってしまったらしい。


だから、一人になった俺を引き取ってくれたというわけだ。


二人には感謝しているし、暮らせるものならずっと一緒に暮らしたい。でもさすがにそれは迷惑だろうし、いずれ独り立ちしなくちゃいけない日が来ることは気づいてた。


それが今日ってことか。


先程の小競り合いをいつの間にか激しい剣の打ち合いに発展させている二人との思い出に、俺は少しの間思いを馳せたのち、決心を告げる。


「分かったよ、じいちゃん。俺、学園に行くよ!」


その言葉に驚いたのか、二人はいつのまにか剣を振るうのを止めていた。


「おお! 良くぞ言った! その決断をワシは誇りに思うぞ!」

「ハ、ハルちゃん!? 無理しなくていいのよ!?」

「大丈夫。尊敬する二人に育ててもらったんだ。これからどんな困難があっても乗り越えられるさ」

『ハルちゃん……』


二人は目頭を押さえながら、震える声で俺の名前を呟いた。


「よ、よし! ではハルよ! ワシが以前お前に伝えた『テンプレ』のことは覚えているか?」

「ああ、ファンタジー世界で必ず発生するお約束のイベント、だったっけ?」

「ふむ。少し付け足すならば、『超絶楽しい』お約束のイベント、じゃな。なんなら青春と言い換えても良いじゃろう。ワシがそれを楽しめなかった分、お前にはそれを謳歌して欲しいのじゃ!」


じいちゃんは異世界から転移してきた異世界人だ。じいちゃんのお陰でこの世界は平和になり、文明の水準も数百年進んだらしい。


だが余りにも忙しすぎて、テンプレを楽しむことができなかったらしいのだ。


そのせいか、毎日のように様々なテンプレへの憧れを聞かされていたので、俺もいつしか体験したいと思うようになっていた。


「すでに学園への願書は送ってある。入学試験は今から一週間後じゃ」

「それしか時間がないのか? 王都に行くだけで一週間かかるのに、試験の準備をする時間がないぞ……?」

「いいや、お前には儂とシルヴィアが散々教育を施しておる。心配いらんぞ。それに、異世界テンプレ的に考えて、落ちることはあり得ん!」

「そうなのか? ……分かった」


正直よく分からないが、そこまでしっかり俺を育ててくれたなんて、さすがはじいちゃんとばあちゃんだ。なら、安心して試験に向かえるな。


俺はすぐに荷物をまとめ、出発の準備を整えた。



「長い間、お世話になりました」


二人に頭を下げて、別れの挨拶をする。


やっぱり故郷を離れるのは寂しいし、一人でやっていけるか少し不安だ。


「待って!」


ものすごいスピードでばあちゃんが近づき、俺をぎゅっと抱きしめる。


少し痛いぐらいだが、子供の頃から知っている温もりを感じる。ばあちゃんの目から流れる涙も、同じように温かい。


「体には気をつけて! 危ないことはしちゃだめよ! あと、落ち着いたらすぐに連絡してちょうだい!」


その様子を見たじいちゃんは苦笑して言う。


「『便りの無いのは良い便り』という言葉もある。連絡はできるときでいいぞ。さあ、そろそろハルを離してやりなさい、シルヴィア。男の旅立ちに涙は不要じゃ」

「……分かったわよ」


涙を拭いながら、ばあちゃんが後ろに下がる。


二人に心配をかけないよう、俺なりに頑張ってみよう。


「じゃあ、行ってくる!」

『行ってらっしゃい!』


じいちゃんとばあちゃんの声を背に、俺は王都への道を歩み始めた。



山を降りる途中、そこに生息する仲が良い魔物たちや麓の村の人らに別れの挨拶をした。


王都にはじいちゃんの付き添いで何度か行ったことがある。多少急ぐ必要はあるが、俺の足でも一週間あれば余裕を持って到着できるだろう。



「キャーーー!?」


しばらく街道を走っていると、前方から何やら叫び声が聞こえてきた。


よく見ると、カタギには見えない集団が五十人ぐらいで、数名の男女を囲んで襲っているようだ。


男女と言ったが、女は一人しかおらず、他は重装備の騎士たちだ。女を守りながら上手く戦っているが、多勢に無勢。だいぶ押され始めている。


これは……テンプレ?


間違いない! じいちゃんから聞いたやつに似ている!


商人や貴族が悪人に襲われているケース。悪人を蹴散らすことで、助けた相手に感謝され、相手と懇意になれたり、多額の報酬を得ることができるらしい。


感謝や報酬などには興味ない。だが、本当にテンプレ通りになるのか気になって仕方ない!


俺はワクワクする気持ちを抑えながら、全速力で駆け出した。



「ち、近づかないでください!」

「ひ、姫様!? おい、誰か! 誰か姫様をお守りしろ!」


姫様と呼ばれた女が、今にも輩に捕まえられようとしている。


「ゲヒャヒャヒャヒャ! 殺せっていう命令だが、こんな上玉もったいねぇなぁ!」

「オレぁ一度ご貴族様を味わってみたかったんだ。それがいきなり王族とはついてらぁ! せっかくだし頂いちまおうぜ!」


下衆な男たちの言葉に、女の顔が恐怖で覆われていく。


「だ、誰か! 誰か助けてっ!」

「ククッ、お前さんの自業自得ってもんだぜ? 観念しな!」


輩が女に汚れた手を伸ばす。


「イヤーーーーー!!!」


女は目をぎゅっとつぶり、悲鳴を上げた。



かなり危険な状況だな。少し相手が多いから、こっちも仲間を呼ぶか。


「我が呼び声に応えよ! 召喚(サモン)! ……アーサー!」


目の前に光り輝く魔法陣が形成され、白く美しい毛並みの大狼が現れた。


召喚者と被召喚者の間に生まれる通信経路パスを介して、俺はアーサーに話しかけた。


(アーサー、ちょっと助けてくれるか?)

(ハルー! さっきはしばらくお別れって言ってたけど、すぐ会えたねー!)

(ああ、まさかこんなに早く呼ぶことになるとは思ってなかったぞ)

(わはっ! 僕も! それでー、あいつら、やっつけちゃっていいのー?)

(頼む)

(まかせてー! じゃあ、さっそく僕も仲間呼んじゃおーっと! 眷属ナイツ、おいでー!)


アーサーの呼びかけに、今度は彼の眷属である狼が次々と姿を現した。屈強で忠実な狼たちであり、その数は二百を超える。


敵が五十そこらに対して、こちらは強力な個体が二百。


やや過剰戦力な気がするが、悪者を一人残らず捕まえるにはこれぐらいが確実だろう。


オォォォォォオオオオオン!!!


体長二メートルを超える獣の大集団が、いつの間にか悪者を取り囲むと、一斉に雄叫びを上げた。


ちなみに、獣の長たるアーサーは、さらに一回りも二回りも巨躯である。


「ななな、なんだ!? どうなってる!?」

「見たことねぇ魔物に囲まれたぁ!?」


俺達の存在に驚き、焦り出す輩たち。


よし、奴らの注意をこちらに向けることができた。これでひとまず、姫様と呼ばれる女の危険は去ったはずだ。


「オメェら! バカみてぇに焦るんじゃねぇ! よく見ろ、ありゃあ下級モンスターのシルバーウルフだ!」

「そ、そうなんですかい、ベッズ様ぁ!? なんか雰囲気が違ぇような……?」

「ガタガタ抜かすんじゃねぇ! あんな雑魚どもさっさと始末して、姫さんを殺っちまうぞ! じゃねぇと俺らの命が危ねぇんだからな! いけぇ!」

『へい!!!』


リーダーらしき男の指示で、輩どもは標的をアーサーたちに変え、襲いかかってきた。


慌てる部下を落ち着かせた点はさすがリーダーと言ったところだが、一つ重大な間違いを犯している。


シルバーウルフの体毛は銀色。一方、アーサーと眷属たちの体毛は雪のように白い。


そう、彼らの種族はシルバーウルフではない。正しくはセイントウルフ、神の使いとも称される高位種族なのだ。


眷属たちは、輩どもが動くと同時に行動を開始した。


突如としてその場から姿を消すと、瞬時に輩の目の前に現れ、首元にガブリと噛みついた。


「ゴフッ……?」

「ギャッ……!? うそ……だ……ろ……?」


大量の血を流して次々に倒れていく仲間を、青ざめた表情で見る輩のリーダー。


「こ、こいつら、ただのシルバーウルフじゃねぇのか……!?」


後方にいたリーダーはそう呟くと、「ヒィーーーーー!?」と叫び声をあげて一目散に逃げ出した。


しかし、それを許す騎士たちではなかった。


逃げる背中を追いかけて、バッサリと切り捨てる。


リーダーはそのまま地面に伏し、動かなくなった。


他の輩もすでに立っているものはいない。


よしよし、これで悪者は全滅だな。


たしかこの後の流れは、助けた相手に感謝され、懇意になったりするのだったな。


「く、くそっ! 体の震えがおさまらない!」

「あああ……あんなに強くて凶悪な魔物、見たことがない! それにこの数、もう終わりだ……」

「バ、バカ者ぉ! 諦めるな! 我々は騎士団! 命をかけて姫様をお守りするのだ!」

「で、ですが、一体どうすれば……?」


……ん? 騎士たちが怯えている? みんなガタガタ震え上がっているじゃないか。


まさか、俺たちを敵だと思っているんじゃないよな……?


二百を超える魔物で取り囲んではいるが、全員が俺の友達だ。意味もなく人間を襲うようなものはいない。


ふいに騎士団の後方から、姫様と呼ばれる女が姿を現し、その前に立った。


後ろに結んだ長い金髪にエメラルド色の瞳が特徴的な、気品のある美しい顔立ちの女だ。


「ご、ご安心ください、騎士団の皆様! このわたくし、リリエンタール国が第三王女、エリーゼ・リリエンタールが死地に活路をひらきますわ! はぁあああ!!!」


エリーゼという名の女はそう叫ぶと、一目散に駆け出し、手にした剣で正面にいる狼に斬りかかった。


「なっ!? ひ、姫様!?」


エリーゼは守るべき対象であり、そもそも敵と認識していない狼は、抵抗することなくその攻撃を受け入れてしまう。


「ガウ!?」


狼の白い体毛が赤い血で滲む。ちょっと痛そうだ。


「や、やった!? 輩どもを蹂躙したあの狼を!?」

「さすが姫様だ! いける! 俺たちもあとに続くぞぉ!」


騎士団が勢いづく。


しかし、傷ついた狼の後方から、ふいに突風のごとき覇気が吹き荒れた。


それをまともに受けたエリーゼと騎士たちは、体がすくみ動けない。


「よくもぉ……、よくも僕の眷属を傷つけたなぁ!」


覇気の発生元は、狼の長たるアーサーだった。


「許さないっ!」


怒気を含んだ、先程よりもさらに強烈な覇気が吹き荒れ、エリーゼと騎士たちを吹き飛ばす。


「きゃあ!?」


地面に強く打ち付けられ、エリーゼを含む何名かは気を失った。


無事だった騎士たちはエリーゼを守ろうと、怯えながらも必死に剣を構えている。


……いやいや、なんで敵対してるんだよ。じいちゃんが言っていたテンプレはどこにいったんだ……?


どうやら、外の世界の人間は魔物が苦手らしいな。


外見はややいかついが、素直でいい奴らばかりなのに。そんなことも知らないとは驚きだ。


とにかくこのままではまともに話もできそうにない。


(アーサー、来てくれて助かった。呼び出しておいて悪いんだが、もう帰ってくれるか?)

(えっ!? やだよ! 仲間が傷つけられたんだ! あいつらをボコすまで帰らないよ!)


いや、ボコすって……。もう十分やり返しただろ……。


仕方がないな。


「スコープド・ヒール!」


範囲指定の回復魔法で眷属の傷を回復する。


ついでにエリーゼや騎士団も回復しておいた。


(これでいいだろ? あいつらは俺たちを敵だと勘違いしているだけだ。許してやってくれ)

(えー。でも僕、暴れ足りないよー!)


やっぱり、目的はそっちか。アーサーが暴れでもしたら、せっかく回復した人間たちが死んでしまうじゃないか。


お帰りいただこう。


(すまん、今度埋め合わせはする)

(ま、待ってよ! ハルー!?)


「召喚(サモン)、解除(キャンセル)!」


瞬時にアーサーの姿が消えた。それと同時に、アーサーの眷属たちも姿を消した。


さて、次は人間たちか。


「おい、大丈夫か?」

「!? 魔物たちが消えた!?」

「傷も癒えている……?」

「な、何者だ貴様!?」

「何者だって? 俺がアーサー、いや魔物を召喚してお前らを助けたんだよ。それぐらい分からないか?」


テンプレの流れ的にも、分かるよな、普通?


「う、嘘をつくなぁ! あんな化け物どもを召喚するなど、よほどの召喚術士でなければできるわけがない!」

「そうだ! それに、助けたと言うならばなぜ姫様は気を失っておられるのだ! 魔物のせいだろう!」

「その女が早とちりして先に手を出したからだろ? 何もしなければアーサーだってあんなことはしなかったさ……多分」

「だ、黙れ! 魔物の手先め! 姫様を傷つけた者は死罪確定だ!」

「貴様は我ら騎士団が成敗してくれる!」

「はぁ?」


なぜこうなる?


人助けをしたはずが、いきなり死罪? 外の世界のルールはわけが分からないな。


…………もういい、次だ。次のテンプレを目指そう。


じいちゃんから聞いたテンプレはまだ山ほどある。


今回はたまたま上手くいかなかったが、次はきっと上手くいく。


なんせじいちゃんが教えてくれたことなんだからな。


俺は再び学園への道を走り始めた。


「……え? お、おい、待て!」


時間を無駄にしてしまった。少し急いで遅れを取り戻さないとな。


「む、無視だと!? 舐めやがって!」

「は、速い!? くそっ、必ず見つけてやるからなぁー!!」


何か聞こえた気がするが、もう二度と会うこともあるまい。


俺はさらに走る速度を加速させるのだった。



★☆★☆★



「う、うぅ……」

「姫様!」

「お気づきですか!? 姫様!」


エリーゼが目を覚ますと、周囲には心配そうに彼女を見つめる騎士たちがいた。


どうやら彼らは全員無事らしい。それを知りエリーゼは安堵する。


騎士といえども国家の大事な民であり、その命を守るのは王族の義務だからだ。


ふぅと気持ちを落ち着けると、彼女は自分がなぜ気を失っていたのか思い出そうとした。


王都へ帰る途中、輩ども──その正体は顔の刺青から明らかなように、王都の裏社会を牛耳る組織<トイフェル>のメンバー──から襲撃を受けた。


死を覚悟したとき、幸か不幸か狼型の魔物に取り囲まれ、輩どもは壊滅。自分たちも攻撃を受けて気を失ったはずだ。


「ま、魔物は!? 魔物はどうしたのです!?」

「き、消えました……」

「消えた!? 一体どういうことです!?」


騎士の一人がことの顛末をエリーゼに伝える。


「そ、そんな……。あれほど高位の魔物を召喚した人物がいたと……?」

「自分も信じられません。ですからその者を捕えて尋問しようと思っていたのですが、逃げられてしまいました。申し訳ありません……」

「いいえ。……でも、一体何者かしら? 少し調べてみましょう。……【解析鑑定】!」


エリーゼのスキルは【解析鑑定】。あらゆるモノの性質や属性、価値などを総合的に測れる優れたスキルだ。


スキルを使う対象としたのは、その人物が逃走した際地面に残された足跡だった。


「足の大きさは29センチ。そこから推測される身長は187センチ、体重が91キロ。足跡は力強く、同じ深さに踏み込まれている。これは達人の足捌きと言って良いでしょう。手練れの武術家、または剣術家に違いありませんわ」


エリーゼはそのスキルを磨き続け、事実だけでなく推理も含んだ、高度なプロファイリングのレベルにまで昇華させていた。


「な、なんと……!?」

「召喚だけでなく、武術や剣術にまで精通しているというのか……!?」

「ええ、驚きですわ。それにこの足跡、クンクン……何かうっすらと残り香があるようですね。これは木や花のもの? それに混じって香るのは……汗、かしら」

「汗ですか? 自分には全く分かりませんが……」


エリーゼは匂いフェチだった。嗅覚は犬並み。顔よりも匂いで人を覚えるタイプである。


「足跡は王都に続いているようね。皆さん、一刻も早く王都に戻り、この匂いの主を探すのです!」


話を聞く限り、この人物に助けられたのはほぼ間違いない。必ず探し出して礼をしなければ。


「はっ! 騎士団、魔導師団、冒険者ギルドなど、現れそうな場所はしらみ潰しにあたり、エリーゼ様を傷つけたあの男を、我々騎士団が必ず見つけて始末します!」

「な、何を言っているのです!? ダメです! もし見つけたらひどいことはせず、必ずわたくしの元まで連れてきてください!」

「で、ですが……」

「だって、直接この素敵な匂いを嗅がないと、わたくしの気が済みませんわ……」

「は? 今なんと?」

「な、なんでもないです! とにかくお願いしますわ!」


慌てて叫んだエリーゼの頬は赤く染まっていた。



★☆★☆★



「なあ、シルヴィア」

「グスッ、どうしたの?」


異世界から転移してきた男カオル・タチバナは、ハルの姿が消えるのを見守りながら、伴侶であるエルフを見て苦笑する。


「まぁだ泣いてんのかよ」

「ふん、あなたもでしょ?」

「は、はぁ!? オレは砂がちょっぴり目に入っただけだからね!?」

「ぷっ! 素直じゃないわねー。『男の別れに』なんとかって格好つけてたくせに」


そういって、今度はシルヴィアがケラケラ笑う。


「ちっ……。それはそうとシルヴィー、ハルにはちゃんと一般常識ってもんを教えてあるよな?」

「何よいきなり。一般常識? 私の常識なら教えてあるわよ。あなたは?」

「エ、エルフの常識だと!? オレは……オレの常識を教えてあるぞ?」

「カオルの常識? それは常識とは呼ばないわね」


二人はしばらく無言になる。


「そもそも常識ってもんがないと、テンプレってテンプレ通りにいかないんじゃねえか……?」

「どういうことよ?」

「例えば、悪人に襲われている人を助けるにしても、助けかたってもんがあるのさ。最凶最悪の魔獣を連れて助けに行ったら、相手に怖がられるだろ?」

「ふーん、そうかしら? よく分からないけど、ハルちゃんならなんとかするわよ。だって私たちの孫なんだし」

「え? ……そ、そうだよな! 心配して損したぜ!」

「ふふっ、あなたらしいわね。さっ、お家に戻りましょう。今日のランチは黒竜のドラゴンステーキよー?」

「キター! シルヴィアのドラテキは最高だからな! もちろんスパイスに世界樹の葉は効かせてあるんだろっ!?」


そうして今日も夫婦は仲睦まじく、我が家へと帰っていくのだった。



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最後まで読んでいただきありがとうございます!!


今後も18:30に投稿予定です。


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