第5話 そういう系の名前のキャラたまに居るけど

 光が差した。


「はぁっ! はぁっ!」


 ついに、マシュはシャルを背負いながら洞窟を抜けた。途中、追手やモンスターには遭遇しなかった。奇跡である。


「封鎖魔法」

「!」


 キン、と。何かの音がした。明るさに目が慣れてきたマシュは、ここが街の外れだと分かった。すぐそこに白い屋根と建物が並ぶ街と人々の喧騒。

 そして、彼らを出迎えるように裾の長いスーツ姿の女性がふたり居た。


「はぁ……。ふぅ……」

「サーモン王国王女シャルルルルル・ル様ですね。兄王子アルルルルル・ル様のご依頼を受け、お待ちしておりました」

「あん……?」


 白い髪をシニヨンにした、同じシルエットのふたり。にこやかに微笑んでおり、マシュ達を歓迎しているようだった。


「私達は『魔法協会』の者です。『禁術』保全の為、あなた達を保護いたします」

「………………ほ、か」


 シャルはマシュの背中で気絶するように眠っている。

 心身ともに疲れ果てているマシュは。

 敵意を感じない彼女らを、取り敢えずは信用するしかなかった。






✡✡✡






 白い街の中でひと際大きな建物に案内されて。

 ホテルのような個室を与えられ、ひとまずそこのベッドにシャルを寝かせ。

 シャワールームで水魔法によるシャワーを浴びて。

 学生服を洗ってもらっている間、用意された裾の広いスーツを着せられて。


 応接間のような部屋に案内された。


「シャル王女は魔法看護師に診せていますのでご安心を。異界の方」

「……ふむ」

「そんなに警戒しないで良いよ。魔法協会はこの世界では国境を越えて大陸各地に拠点を設置できるほどの地位があるからね」


 マシュの座るソファの向かい側。あの白いシニヨンヘアの女性がひとり、後ろで控える。

 正面のソファに、彼女の上司らしい女性が座っている。黒髪をパッツンに切り揃えた、ツリ目の女性である。金属の装飾が施された、スーツを着ている。


「私は魔法協会シロイナ支部支部長クロカーミ・パッツナー。クロカと呼んでくれ」

「とんでもない名前で心底ビビってるわ。正直すまん。流石にツッコまな大阪の人間として」

「ん? ああ、異界の感覚だと少し変な名前に聴こえるのかもしれないね。君は?」

「内山シュバルツ。マシュでええよ」

「ふむ。君のそのフルネームも、こちらの世界だと『お金貸してクレ太郎』くらいの意味だ。お互いさまだね」

「カルチャーショックどころやないやろそれ。俺の存在がもうカスやん。なんかすまん。二度とこの世界でフルネーム名乗らんわ」


 白髪シニヨンの女性が、お互いのソファで挟んでいるガラステーブルにカップをふたつ置いた。


「ん。おおきに」

「警戒しなくて良いよマシュ。良いお茶だ」

「ほむ」


 クロカがそれを手に取って傾ける。それを見て、マシュも口を付けた。

 マシュ視点としては、チャイに似た味と香りの飲み物だった。


「さて。ここはシロイナ王国。サーモン王国とは山を隔てた隣国でね。アルル王子の依頼で、国を繋ぐ『秘密の洞窟』から出てきたシャル王女とその従者を保護することが決まっていたのさ」

「…………サーモン王国はホンマに滅んだんか」

「そうだね。ここまでは火の手も騒動も影響が無いけど、明日の朝刊には載っているだろう」

「あのドラゴンはなんやねん。あのハゲは。追って来んのか?」

「追えないさ。秘密の洞窟は既に塞いだ。アレは王族くらいしか知らない抜け道だったのさ。そして、ドラゴンか。そのハゲというのは竜騎士ドラゴンライダーだね? 着ている服に紋章は無かったかい」

「あったな。こんな……」


 マシュは、テーブルの端に置かれていたメモ帳とペンを取り、スキンヘッドの大男の着ていたローブに描かれていたマークを描いた。


「ふむ。『魔導連盟』の紋章だね」

「魔導連盟?」

「そうだね。現状、この世界とシャル王女の身に何が起きているのかも含めて、説明しよう。ハク。ホワイトボードを」

「はい支部長」

「(ハク……)」


 後ろのシニヨンヘアの女性はハクという名前らしい。『クロカーミ・パッツナー』と比べるとどうしても『運が良かった』という感想を抱かざるを得なかったマシュ。


「魔法というのは、この世界の豊かで便利な文明には欠かせない技術だ」

「ほむ」

「だが同時に。魔法を使えば簡単に人を殺せるし、他の犯罪もできる」

「やろなあ」

「だから、歴史を学び、危険な魔法を『禁術』として指定して使用を禁止したり、国民の教育で習う魔法を厳正に精査して制限したり、一定の魔法の修得は免許制にしたり、魔法犯罪を対策する第三者組織が設けられたりしているんだ」

「ほむほむ」

「それらを取り纏め、統括しているのが『魔法協会』であり、世界魔法基準。加盟国は大陸全土で約9割、145ヶ国が批准している。国を跨いだ、大陸を股に掛ける巨大組織なのさ」

「ほむほむほむ」


 マシュは、この話は真面目に聞くべきだと思った。この世界のことを学べば、それは召喚主であるシャルを守ることに繋がると思ったからだ。


「しかし。それに異を唱える組織や反発する国は存在している。それの代表格が『魔術会議』と『魔導連盟』だ」

「ほん?」

「『魔術会議』は、禁術の指定を特に嫌っていてね。もっと自由に魔法を研究して発展させるべきだという理念がある。だから、禁術を奪って自分達のものとすべく、よく継承者が狙われる」

「あのハゲはちゃうんか」

「そうだ。『魔導連盟』は魔法を正しく導くことを理念としている。つまり、禁術に指定されるほど危険な魔法は保存などせず即座に消してしまうべきだという考えだね。だから、国ごと燃やして滅ぼして、継承者ごと殺そうとしたんだと思う。紋章もそうだし、やり方が連盟のやり方なんだ」


 マシュは。それを聞いて。


「……『魔導連盟』か……」


 反復して口に出して。その名を学んだ。

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