禁術使いと被召喚者〜テキトーでゆるそうな異世界に召喚されたけど実は思ったよりシリアスな世界観で反応に困るんだが、流石にヒロインの国を滅ぼしたクソ野郎は倒して元の世界に帰ることを目指す大阪の高校生の話〜
第6話 地球でも世界各国に伝統的煮込み料理はあるんやで
第6話 地球でも世界各国に伝統的煮込み料理はあるんやで
「失礼します」
そう言って応接間に入ってきたのは、もうひとりの白髪シニヨンヘアの女性。
「シャル王女が目を覚まされました」
「!」
ガタリ。マシュが立ち上がる。続いてクロカも。
「行こうか。王女にも色々と説明してさしあげなければな」
✡✡✡
「マシュさん!」
「うおっ」
部屋に入った途端。シャルがベッドから這い出て、マシュに縋り付いた。
まだ体調は回復していない。縋り付きながら倒れ込み、座り込んだ。
「わたっ。わたくしにはもう、マシュさんしか……!」
「シャル」
どう言葉を掛けたら良いか、マシュは分からなかった。国を失い、兄を置いて逃げた王女。全てを失った。
窓からの景色を見ると、日は傾いていた。あの壮絶な出来事は、真昼間に行われたのだ。
「うあああ! マシュさん! マシュ……さ、ひぐっ。ぁぁ……!」
取り乱している。当然だろう。当事者でないマシュも混乱しているのだ。
「シロ。寝かせろ」
「はい」
「?」
シロと呼ばれた、もうひとりの方の白髪シニヨンヘアの女性がシャルに向かって右手を翳した。
「睡眠魔法」
そう呟くと、翳した右手の掌から水色の光が吹き出るように発生し、シャルの頭部を包み込んだ。
「う……」
そして、シャルは意識を手放し、マシュも解放された。
「まだ、落ち着くまで時間が掛かるだろう。それまで滞在してくれて構わない。マシュ君も疲れているだろう。今日は休んだら良い。また明日、話をしよう」
「……了解や」
マシュはシャルを抱き上げて、ベッドへ寝かせた。そこへ、シロもやってくる。
「シロと申します。魔法看護師です。シャル王女は肉体の疲労と魔力の枯渇で衰弱しています。私が王女の担当として付きますので、ご安心を」
「…………了解や。おおきにな」
確かにマシュも、疲労困憊である。
その後マシュは案内された別室で、泥のように眠った。
✡✡✡
次の日。
「おはようございます。マシュさん」
「…………ん」
いつもと肌触りの異なる布団。知らない天井。母親ではない声。
寝起きのマシュは一瞬思考が停止したが、徐々に昨日のことを思い出してきた。
「(…………ああ。夢やなかったんやな。異世界に召喚されて……)」
身体が重い。まだ、少女を背負って洞窟内を全力疾走した肉体的疲労と、国の滅亡を目の当たりにして、その犯人と怪物のプレッシャーを目の前で受けた精神的疲労は回復していないようだ。
だが、シャルと比べれば。些細なことだと思い込んで。なんとか起き上がる。
声を掛けたのは、白髪シニヨンヘアの女性だった。
「……ええと。ハクさんか」
「はい。よく分かりましたね。まだ名乗っていませんのに、覚えていただいて嬉しいです」
名前を当てると、にこやかに笑った。
よく見ると黒目がちな大きな瞳で、可愛らしい印象を受ける。
「(クロカさんが呼んでたし、シロさんはシャルに付いてる筈やから消去法やねんけどな)」
脚も痛む。普段運動など体育の授業でしかしていないのに、急に動かしたからだ。筋肉痛と同時に、靴擦れによる外傷もある。
「改めて。魔法協会シロイナ支部所属支部長秘書のハクと申します。私も一応治癒魔法の高等免許を持っていますので、痛む所があれば仰ってくださいね」
「ああ。おおきにな。シャルは?」
「シャル王女はまだお休みに。相当ご無理をした上、あんなことがありましたから」
「……やろうな」
立ち上がる。するとハクが、マシュの学生服を持ってきていたことに気付く。
「お召し物です。シャツは破れた部分がありましたので、こちらの世界の似たようなものをご用意いたしました」
「おおきにな。……金とか持ってへんのよな」
「いえ問題ありません。マシュさんはシャル王女の『召喚生物』扱いですから。それに、この対応は全て『禁術の保全活動』として扱われますので、協会の経費で計上できます」
「……なるほど?」
「お食事もお持ちしております。終わりましたら、応接室までお越しください。今後について、支部長からお話があります」
「了解や。何から何まですまんな」
「とんでもありません。失礼します」
ぺこりと頭を下げ、ハクは退室した。不意に日本らしい所作を見て、妙な気分になった。
「…………今後についてか。どないなるんやろなマジで。取り敢えず一旦シメサバと連絡取りたいねんけどな。ほいでオカンオトンとか心配しとるやろうし。やけど電話はシャルの魔法使わなアカンからなあ」
一応、スマホはある。洞窟に落としてきたりはしていない。だが充電は確実に減っている。元の世界と連絡を取れるのも、あと少しだろう。
まずはシャルの回復を待たねばならない。
「下級異界の下等生物。召喚生物、か。人間みたいに接してくれとるの、ホンマは凄いことなんちゃうか。俺魔法とか使えへんもんな。確実にこの世界の人間より『下』な訳や」
ハクが運んできてくれた食事に目を向ける。テーブルの上に、トレイが置かれていた。大きめの茶碗に、具材が沢山入ったスープのようなものが注がれていた。
「シチューみたいなやつやな。ほいで、スプーンの形は同じなんか。まあ人間の形が同じやもんな。そらそうか」
マシュはありがたく手を合わせて、スプーンを取った。
「何の野菜か肉かも分からんけど、美味いな。いやありがたいわホンマ。実は腹減りまくってたからなあ」
温かいそれを搔き込んで。マシュは今後のことについて思案した。
「(あのドラゴンハゲはどっかでぶちのめさなシャルを追い続けるやろ。帰る手段探すんはそっからやな。俺も練習したら魔法とか使えるようになるんかな……)」
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