3_情報をあつめること!!

「蔵山水樹。血液型OO。実家の父の蔵山統也とうやは貿易業を営んでいる、まあ結構なサイズの会社の部長。母の菜月なづきは、大手航空会社のCAキャビンアテンダントをやっていた職歴があると」


 まあ、何というか。光海さんと知り合った週の週末、土曜日。上階にレンタルビデオショップと書店が入っている大型ビルの1階にある、大手チェーンの喫茶店、トリーズコーヒで。

 僕は兄貴に比べれば桁が一つ少ないお小遣いの中から結構いたい金額を支払って、光海さんのオーダーのグランデサイズのブラッドオレンジジュースを彼女に奢った。


「すっご。どうやって調べたんですか? 光海さん」


 僕は、どうやって蔵山さんのそんな家庭の情報を探り当てたのかと光海さんに聞いてみた。


「水樹さんね、アレなのよ。現役高校生だけど、モデルもやってるの。最初は、母親の菜月さんの実家の呉服問屋のモデルから始めたらしいけど。いまではちょいちょいと女子高生や女子大生の読む雑誌のモデルもしてるのよねー」


 僕は光海さんにはブラッドオレンジジュースしか奢らなかったので、光海さんは自分でお金を払って買ったスコーンをポリポリやりながら、タブレットを叩いている。


「それで? その情報だけでできるの? そこまでの分析が」

「充分よ。名声が上がるって事はイコールでプライベートが暴かれるって事。まあ、あの容姿で水樹さんが貧乏家の出だったりしたら、ぶっ叩かれるか逆に成り上りを目指す女の子達のカリスマとして担ぎ上げられるか。どっちかだったでしょうけど、そこそこの良いお家の出で、学校も財界人が行くような所じゃなくて、うちの高校みたいな庶民派の所に通っていることで。変な危険性を孕まないで済んでいる辺りあれねー。なんていうか、半端という意味じゃない好い加減よ」

「光海さん、答えてないよ? 僕の質問に。どうやって情報調べたの?」

「あのね? 云っとくけどこの程度は。検索エンジンでモデルってキーワードと本人の名前入れるだけで、探せるもんなの。あの子、そこそこの有名人だから」

「そうなのか……」


 ブラッドオレンジジュースをストローでくいっと飲み。

 またスコーンを齧って言葉を紡ぐ光海さん。


「で、まぁね。私が君の事を情弱って言ったのは。要するにあの子が華やかな世界を知っているって事を考えてない、もしくは。知らないんだろうと思ったから。どうするの? 正時君。水樹さんは、いわば半分は一般人ではないわよ?」


 うーむ。まさかあの水樹さんが。そっち系の世界に行っている人間だとは知らなかった。いつも落ち着いて控え目で。あの艶やかで滑らかな絹糸の様な黒髪と、静かな顔立ちと表情と挙措。抜群の学業成績に、所属している弓道部での活躍度。質素で堅実な子だとばかり思ってた。そうか……。

 なんだ、あの子。何でも持ってるじゃないか。そう考えると僕は。自分に水ぼらしさを感じて、何だかうなだれてしまった。でも。


「……ふふふふふ。その不満そうな表情。諦めてないのね? いいじゃない、それ。恋や愛は執着よ。執着の強さで勝負が決まる。如何にスペックが高くても『この人は私を本当に必要としているのかしら?』という疑いを女性に抱かせてしまったら。その恋愛は負け戦。勝てやしないのよ」


 うーむ。この人はなんかすごい。僕よりも1歳年上なだけなのに。なんでこんなに迫力と知識と経験の含まれた発言が出来るんだろう。


「……光海さん」

「はい」

「無謀だと思いますか? 僕の恋路」

「うん」

「絶対に付き合えないと思う?」

「いいえ」

「なんで?」

「恋愛に絶対に叶うも、絶対に無理もないの」

「僕はどうすればいいのかな?」

「もっともっと。好きな子を好きになりなさい。それが基本よ」

「うん……。うん!!」

「まあ、取り敢えず絶対にやったほうがいいことが一つあるわ」

「? それはなんですか? 光海さん?」


 光海さんは。一呼吸をそこで置くと。

 凄い瞬発力で動いて、僕の髪の毛をひっつかんだ!!

 そして言った言葉は。


「その鬱陶しい、中学生みたいなツーブロックを切ってこい!!」


 という事だった!!

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