第8話 解放

【レベルが上がりました】


 目の前に浮かび上がる文字。


 俺はステータスボードを展開した。




【シュウト・タカハシ】


 LV:1→38


 体力:10→320

 魔力:5→270

 筋力:3→100

 敏捷:10→350

 耐久:5→330

 幸運:1→100


 特殊スキル:魔眼【強制暗示】

 一般スキル:なし



 一気に37のレベルアップか。

 キマイラがどれだけ強敵だったのかを証明しているみたいだ。

 だけど、これだけレベルが上がっても三山や横溝、鏑木たちSランク以下のステータス。

 運動音痴がここで効いて来たか。


「まあ、それでも俺には魔眼がある」


 強制暗示の魔眼。

 目を合わせて、敵の名を呼ぶ。

 これが発動条件となり、指示を出すことで相手は暗示に陥る。


 死ねと言えば、死ななければという意思に駆られ、他の命令でもそれは同様。

 簡単にいえば、目を合わせた相手を支配下に置ける最強の眼だ。


 素晴らしい力を手に入れた。

 これがあれば、復讐は可能だ。

 全く、堕女神には感謝しなければ。


 足を引き摺りながらも堕女神の元へ歩き、持っていた自分の目を植え付ける。

 驚くほどにすんなりと目は入り、まるで最初からそれが正しい姿の様だった。


「さて、借りは返さないとな」


 借りっぱなしは性に合わない。

 この眼の実験も兼ねて、堕女神を鎖から解放するとしよう。


 俺は鎖を視界に収め、宣言した。


「女神を捕らえし鎖よ——砕け散れ」


 ピキピキと、鎖に亀裂が走る。

 亀裂は鎖全体に広がると、そのまま音を立てて崩れた。


 よし、無機物への干渉も可能だ。

 これが分かれば戦術の幅がだいぶ変わる。

 そして何より、堕女神の解放にも成功した。

 一石二鳥とは、正しくこのこと。


 鎖と共に倒れる堕女神。

 俺はその身体を優しく受け止めた。


「ふ、お前は私を解放しないと思っていたよ」


「起きてたなら自分で立て。この堕女神が」


 受け止めて損した。


 そう思い手を離すが、女神がこちらへ倒れ込んで来る。


「……おい」


「数百年ぶりに身体を動かすんだ。少しは手を貸せ」


 神とはいえど、そんなものか。

 命令口調は気に入らないが、恩人には変わりない。


 俺は仕方なく手を貸し、二人揃って近くの壁にもたれかかる。


「ふ、ボロボロだな」


「お互い様だ」


 戦闘でボロボロの俺とは別に、外見上はそうでもないが、布の隙間から僅かに見える痩せ細った腕などからも、あからさまに弱っている堕女神。


 どっちもどっち。

 二人揃って、ボロボロだ。


「百年以上封印されていて、よく死ななかったな」


「ああ。それは左眼の力だよ」


 堕女神が自身の青く輝く左眼を指す。


「【輪廻転生】の魔眼。私は死ぬ度に新しい私として生まれ変わり続ける。この眼を持つ限り、私が死ぬことはない」


 右眼は【強制暗示】

 左眼は【輪廻転生】

 左右揃って馬鹿げた能力だ。

 こんなものを持っていながら、なぜ封印されたんだか。


「因みに、俺が左眼を奪ったらお前はどうなってたんだ」


「まあ、死んでいただろうな。それはそれでいいと考えていた。封印されたまま死に続けるのは苦痛だったのでな」


 さらりとエグい事を言う。

 一歩間違えたら、俺はこいつの自殺を手伝う羽目になってたのか。


「右眼でよかったよ」


「なんだ。優しいな」


「自殺の手伝いはお断りってだけだ」


 さて、そろそろ動こう。

 雑談はもう終わり。

 いつここが襲われるかも分からないし、早くダンジョンから出たい。


 俺はのそりと立ち上がると、女神と目を合わせた。


「なんだ?言っておくが、私に魔眼は効かないぞ」


「黙ってろ。お前じゃなくて、俺にかけるんだよ」


 女神の目に映る俺に向けて、俺は宣言した。


「高橋修斗、お前は——痛みを感じない」


 思考が変わる。

 そんな不思議な感覚。

 まるで今までの常識が一気に入れ替わる。

 不気味な感覚が脳を支配した。


 手を開いて、閉じる。

 その場でジャンプし、肩を回す。

 どこにも異常なし。

 いや、異常はあるが動ける。

 動けるのなら、今は問題ない。


「ほう。器用だな」


「俺は行くが、お前はどうする?」


「連れて行ってはくれないのか?」


「俺にお前を運ぶ力があるとでも?」


 自慢じゃないが、俺は非力だ。


「同じ要領で私を軽くすればいい。紙を運べない人間はいないだろう?」


 まあ、それはそうだが。


 あくまで暗示は脳を騙すだけ。

 実際に力が増す訳ではないのだが、少しは無茶するか。

 この堕女神はまだ利用価値がある。

 復讐という共通目的もある訳だし、暫く手を組むのも悪くない。


「目を貸せ。暗示をかける」


「そんなに見つめるなよ。照れるだろう」


 ゴタゴタと冗談を言う元気はあるみたいだ。


 俺は女神の戯言を無視して自己暗示をかけた。


 女神の重さはティッシュ以下。

 まるで重みを感じない堕女神を背負い、俺は地上への道のりを探し始めた。

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次の更新予定

2024年12月12日 17:00

強制暗示の最凶魔王 ~役立たずと捨てられた俺が復讐を誓い魔王へと至るまで~ 森林木林 @sou1234

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