第2話 世界の説明

説明回です


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「異世界召喚だあ!?意味わかんねえこと言ってんじゃねえぞ!!」


 横溝の怒鳴り声が薄暗い石造りの部屋に響き渡る。

 目が覚めると、俺たち二年三組はこの部屋で横たわっていた。

 所々に暖色の灯りが配されている。

 提灯なんかに似ているが、これはどちらかといえばランタンが正しいだろう。

 日本ではない、明らかに西洋風。


 いつ移動したのか分からないが、俺が目を覚ました時には先に目覚めていたであろう横山が、誰かに怒声を浴びせていた。


「貴方たちは世界を救う勇者に選ばれたのです」


「だーかーらー、意味わかんねえっつってんだろーが!ちゃんと説明しろや!」


 先に起きていたやつらの方に向かうと、そこには見知らぬ女性に掴みかかる横溝。

 キレ散らかし、いつ殴りかかってもおかしくない状況だ。

 対して女性は横溝に怒鳴られても平然としている。


 絹のように白く滑らかな銀髪。

 瞳は大きく、金色。

 抜群のプロポーションに、肌をふんだんに見せた薄手の白いローブ。

 エロさというか、もはや芸術品。

 美しさに目を奪われるレベルだ。


「そうですね。全員目覚めた様子ですし、説明しましょう。まずは私の名から。私は女神アーテ。貴方たちをこの世界に召喚した神です」


 イタい人、という可能性もなくはないが不思議とそうは思えない。

 それは他のクラスメイトも同じな様で、一部の男子がコソコソと小声で話し出した。


「これって異世界召喚じゃね?」

「え、やっぱお前もそう思う?」

「じゃあ、チートスキルとか貰えたり?」「えー、夢じゃねえの?」

「誰かほっぺた引っ張ってくれ」

「痛ー。やっぱ夢じゃねえよ」

「じゃあ、やっぱ異世界召喚じゃん」


 異世界転移、又は転生。

 今や誰もが知っているラノベやアニメのジャンルだ。

 自称女神の言うことが本当なら、今回のパターンは異世界転移という事になる。


 そんなちょっとはしゃぎ始めた男子と違って、女子の方はパニック状態に陥っている。


「意味分かんない。あたし、帰りたいんだけど!」

「これって誘拐じゃん。ねえ、警察に連絡しよーよ」

「はあ!?電波繋がらないんですけど」

「う……うぅ……。帰りたいよぉ……」

「泣かないでよ!私まで泣きたくなるじゃん」


 反抗的な者、スマホを手にする者、泣き出す者。反応は様々だが、全員がこの状況を理解していない。


 そしてそれは、俺も同じだ。


「…………」


 手の皮をつねる。

 よし、痛いはある。

 これで夢の線は消えた。

 スマホは圏外だ。

 というより、そもそも画面がフリーズして動いてない。

 こんなのは、普通ならありえない。

 となるとやはり、異世界説が正しいか。


 それにしても、思い返せば召喚のタイミングは素晴らしかったな。

 正直、感情的になって三山を煽ったはいいが、対応策は何もなかった。

 鏑木が割って入ったから時間だけは稼げていたが、この世界に来たお陰で全部有耶無耶に出来た。


 状況整理のため、周囲を見渡す。

 甲冑を着た騎士風の人々が剣や槍を手にしている。

 

 逃がさないという意思表示だろうか。

 ただの話し合いにしては、些か物騒に感じる。

 

 クラス全員が目を覚まし、それぞれが錯乱し始めた時、鏑木が一際大きな声でみんなの注目を集めた。


「みんな!聞いてくれ!僕もこの状況はよくわからない。だからこそ今は落ち着いて、女神様の説明を聞いた方がいいと思う!」


 流石のリーダーシップといったところだろう。

 三山グループなど、一部鏑木が出張ることに不満そうな顔をする者もいるが、この一言で大半の生徒は落ち着きを取り戻した。


「鏑木様、ありがとうございます。それでは説明を始めさせて頂きますね」


 楚々とした笑みを浮かべ、女神は俺たちにこの世界の説明を始めた。



 * * *


 女神の説明を聞いて、今の状況を少しだけ理解した。


 まず、この世界で封印されていた六人の帝王、通称『六魔帝ろくまてい』が復活したらしい。


 今いる場所、サウストリス王国は女神が祀られている為、民からの願いで巨悪に対抗するべく、異世界から『勇者』と呼ばれる素質ある人間を召喚している国だそうだ。


 勇者は過去にも存在していて、別に俺たちが始めてという訳ではない。

 前回の召喚はこちらの世界で500年程前であり、六魔帝を封印したのも彼らだそうだ。


 そうした経緯もあってからか、サウストリスは他国から特別な扱いをされていて、こうした勇者召喚の際には様々な援助を受けれるらしい。


 まあ簡単にいえば、六魔帝はどうにかしてやるから金や食料を寄越せという契約。

 他国には女神がおらず、勇者召喚ができない為、従う他道は残されていない。


 女神があらかたの説明を終えた後、鏑木が手を挙げて質問した。


「つまりその六魔帝という人たちを、僕らで倒せということでしょうか?」


「はい、そうです」


 女神が淡々と答える。


「協力してやる必要を感じねえなあ!」


 声を荒げる三山。

 不本意だが、俺も同意だ。


「頼んでもねえのに連れて来られて、その上戦えだあ!随分と勝手すぎやしねえか?」


「その点については謝罪します。しかし、元の世界に帰るには六魔帝を倒さなければいけません」


「なぜ?」


「六魔帝の魔力が邪魔をするからです。彼らが目覚めている限り、私はこの世界で力を存分に使うことは出来ません。使えるのなら、最初から私が倒しています」


 だとしても、勝手な話だ。

 どんな理由があろうとも、この世界とは微塵も関係のない俺たちを連れて来たことには変わりないのだから。


「今の私は貴方たちを召喚する為に力を使い果たした、いわば抜け殻の様な存在です。おねがいします。どうか……どうかこの世界を救ってください。勇者様方」


 女神や、周りを囲んでいた兵士たちが一斉に頭を下げる。


 納得はいかずとも、ここまでされては許し、協力しようとする者が多数。

 その代表格として、我らがクラス委員二人が前に出る。


「頭を上げて下さい、女神様」


「そうですよ。困っている人を助けるなんて、当たり前じゃないですか。そうだよね?みんな!」


 白浜の声に、一同が賛同し出す。

 

「あ、当たり前だよな」「まあ、勇者ってかっこいいし」「鏑木君がやるんなら私も……」「あ、抜け駆けする気でしょ!」


 もはや空気は賛同一色。

 誰も協力しないだなんて言い出せない空気になってしまった。


 皆が思い思いに喋り出し、明るい空気が戻って来た中、パァンと手のひらを合わせる音が響いた。

 視線の先には、女神。

 どうやら、注目を集める為に拍手したみたいだ。


「皆様のご協力、誠に感謝致します。それでは早速ですが始めましょう。皆様の勇者としての才能を目覚めさせる『スキル鑑定』を」


 カラカラと音を立てて台座が運び込まれる。

 その上には、占いでしか見ない半透明の水晶。


 どうやらあれで何かを計測するみたいだ。


「それでは順番に水晶に手を添えて下さい。前の世界では存在しなかった、素晴らしい力が手に入りますよ」


 その時見せた美しき女神の微笑みが、俺には何処となく不気味なものに感じた。

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