コニコと魔法使いの庭

尾八原ジュージ

prologue

01

「コニコちゃん、家出しよ」

 みはるさんが言いました。

 それでわたしたちは、家出をすることになりました。


 だってみはるさんの言うことは何でも聞けって、お母さんが言ったのだから。

 みはるさんが家出しよって言ったら、わたしはするのです。

 みはるさんのおうちはお金持ちで、二階建てのちゃんとした大きな家で、ちゃんとパパさんとママさんがいます。もしかしたらお兄さんやお姉さんや弟や妹や、大きな犬や毛の長い猫や、お手伝いさんたちもいるかもしれません。なのにどうして家出したいのかわからないけど、それでもみはるさんが家出しよっていうなら、わたしはしないとならないのです。

 みはるさんの言うことだから。


「家出にぴったりのところがあるんだよ。コニコちゃんに教えてあげるね」

 みはるさんは、わたしのことをコニコちゃんと呼びます。

 わたしの名前はコニコではないと思います。お母さんや先生や病院の受付の人に名前を呼ばれるときとか、学校でテストに名前を書くときとかは、別の名前を書いているので、こっちが本当のはずです。

 でも、みはるさんはわたしのことをコニコちゃんと呼びます。だから、わたしの本当の本当の名前は、こっちなのかもしれません。

 どっちみち、みはるさんがコニコちゃんと呼ぶときは、わたしはちゃんと返事をします。そうすると、みはるさんはうれしそうににこにこ笑ったりするので、本当とかはどうでもよくて、とにかくそれでいいのだと思います。


 最初に家出したのは、夏でした。むしむしして、空気が重たくって、なんだか雨と晴れの真ん中みたいな空の日のことでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る