第2話
「ただいまー!」
夜6時くらいだろうか、明かりは消えて街の街灯が道しるべとなった。
「あら、おかえり、手洗いうがいしなさいよー」
「わかった」
家に帰ったら手洗いうがい。
これをしっかりと教えてくれるお母さん。やっぱり優しい。
「今日お父さんは飲みにでも行ったの?」
一通り終わったところでお父さんがいないことに気づいた俺はそう質問をした。
「それがねー、この頃物騒で、魔王軍が攻めてくるかも?って言われてて見回りしているんだよ。」
「魔王軍——なんかすごい怖いね。」
魔王軍といえば近頃一気に勢力を上げているガノンの王国の軍の総称だ。
恐ろしいくらいの軍勢や兵器を持ち合わせて攻められた国はどんどんと滅びていく。
そんなことを風の噂で聞いた。
「そうだね、変なことにならなければいいけど。」
そう言いってお父さんがいない食卓を囲んだ。
「いただきます。」
「今日はシチューなのよ、カリネは大好きだよね」
「うん!大好き!お母さんの作る料理は美味しいもん!」
「あらやだ嬉しい。将来のお嫁さんにも言うのよ。」
「うん!」
簡単な雑談を繰り返して食べるご飯は普通そうでやっぱりかけがえのない大切なもの。
一通り食べ終わってお風呂に入ろうとしたその時。
「「魔王軍がやってきたぞ逃げろ!!」」
外からいい大人が必死に叫んでいる。その声は村全体を轟かせて同時に恐怖へと追いやった。
「お、おかあさん!」
恐怖のあまり助けを求める。
「いい、ここに隠れてなさい。お母さんは部屋で見張るから。」
そう言って俺をクローゼットへと隠した。
心臓がバクバクする。
先ほど話したあの魔王軍が来ると言うと、考えただけで死にそうだ。
母は窓のカーテンを閉めて隠れる用意をした。
そういった用意も束の間。
大きな足音が聞こえてくる。
多分トロールの軍勢だ。
地面が揺れている、一瞬地震を疑うレベルだ。
どんどん近くなる。
怖い怖い怖い。
泣きそうだ。だが叫んだらどうなる?。そう考えると本能で息を呑んだ。
近い。
家の前あたりで何匹か方向転換したのか、部屋の方へと近づいてくる。
「おかあ……さん。」
非力な声が漏れるが、聞こえない。やはり震えている。
その瞬間。
奴らは屋根と壁を突き破った。
「な、何よ、これは——」
お母さんは絶望した目をしている。
そう、死を悟ったのだ。
目の前にいる凄まじい脅威、一目見ただけで腰が抜けそうなほどの凶暴な顔つき。
そんなヤツらにお母さんは。
——潰された。
母は奇声を上げた。が、途中で聞こえなくなった。
目の前でお母さんがトロールに潰された。
叩くと言う表現の方がいいかもしれないが、トロールの大きな手で上から叩きつけた結果。
お母さんの体が原型を留めていない。
さっきまで話していたお母さんが、今は形もわからない状態になっている。
そんな姿を見て俺は目のハイライトを失った。
ああ、怖い。
目の前にいる恐怖と相対しなければならないこと。
母親を目の前で殺された後の母。
そして、自分もここで死ぬと言うこと。
ああ、後1分もしないで死ぬんだな。
そういえばファルマは大丈夫だろうか、俺が死んだと聞いて泣かないだろうか。
ファルマや両親との思い出が蘇る。
これが走馬灯か、もう死んでもいいかもな。
そんなことを考えると、木製のクローゼットをトロールが持ち上げた。
「気づいてたのかよ……」
さて、死へのカウントダウンが始まる。
トロールはよだれを垂らしながらクローゼットの中の俺を見る。
トロールがクローゼットを地面に叩きつけた。
クローゼットはこれ位に破壊され、中から獲物が出てきた。
クローゼットの木材が当たったようで頭から流血している。
「あ、ぅら、」
言葉にならない叫びが出た。
痛い、怖い、そんな思いが死の直前に襲ってくる。
本当にこれが最後だ。
トロールは醜い顔の骨格を上げて俺の真上に手を置いた。
死の覚悟だ。もう自分はこの世にいない存在。そう思えば楽だ。
そしてトロールは手の礫で俺をミンチにしようとした時に。
騎士は現れた。
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