オモテは裏であり、裏はオモテである

 初詣っていうのは自分で決めた範囲でいいなら、今日を初詣にしたい。

 今日は咲とのデートの日だ。

 お互い反省も込めて神社に行こうという結果に至った。それと新しい一歩を踏み出すためにも。

 やっぱり、まだ人は多いな。

 周りを見渡せばいろんな人が居た。カップルらしき人たちや、爺さん婆さんたちも。

 神社っていいな。

 そんなことを考えていると、不意に声が聞こえてきた。

「結城~」

 階段を上がりながら手を振っている咲に目が行く。

 なんて、可愛いんだ。

 少し露出した服で、綺麗に整った髪、全てが完璧だった。

 咲が俺の彼女なんだよな? やっぱり不安になる。もちろん俺も努力はしている、毎日筋トレはしている。だけど、自分に自信がない。

「お待たせ!」

「そんな、待ってないよ」

「うわ、結城には似合わないセリフだね」

「冗談でも傷つくよ」

「冗談じゃないよ」

 そう言い、咲は頬にキスをする。

「ちょ」

 突然の出来事に慌てると、咲は意地悪そうに笑う。

「ご褒美」

 咲は結城の腕に抱き付き呟く。

「今日は楽しもうね」

 






 

 俺たちはお賽銭箱の前に立っていた。

「ちゃんと願い事決めてる?」

 咲は財布を開き小銭を探しながら言う。

「決めてるよ」

「どんな願い事?」

「咲とずっと一緒に居られますように」

「なによそれ」

 照れているのが口調で分かる。

「ちなみに咲は何を願うんだ?」

「うーん、大学合格しますようにかな」

「そっか」

「怒った??」

「怒ってないよ、ただ、ちょっとだけ不安なだけ」

「不安?」

「うん、ずっと不安だよ。咲って可愛いじゃん? だから大学に行ったらモテそうで不安」

「もー、心配しすぎだよ」

「本当に不安なんだ、それに――」

「結城、私はね案外一途だよ?」

「それは、俺もだよ」

「なら、永遠じゃん」

 納得のいかない答えだけど、納得してしまう。

「そうだね」

「そうだよ! だから安心して、死ぬまで面倒みてあげるからさ」

 咲は強く結城の手を握る。

「俺もみるよ」

「私はしぶといぞ?」

「俺もしぶといよ」

「確かに、逃げるの上手いもんね?」

「そうだね、でも、咲よりは下手だよ!?」

「あー、どういうこと?!」

 俺たち二人は笑った。咲の笑顔は太陽にも勝てるほど明るかった。

 不意に、コインが投げられる音がした。

 賽銭箱に向かうコインは勢いよく回る、表や裏なんて関係なしに勢いよく回る。

 いつから、コインがオモテやウラがあるなんて思っていたんだろう。変な考えが頭をよぎった。

 なんか、今なら成瀬が言っていたことが分かる気がする。

 多分、コインは、裏、表、なんてないんだ。だってその存在を勝手に俺たちが決めた。だから、コインは裏なんてないし、ましてオモテなんてない。

 俺は横で賽銭箱に向かって小銭を投げている咲を見る。 咲は俺を嫌っていると決めつけていた。

 成瀬が伝えたかったのは、決めつけはよくなってことだな。

 いつしか、コインには裏と表が存在すると思っていて、春になると桜が咲くのが当たり前だと思っていて、冬になると雪が降るのが当たり前だと思っていた。

 だけど、必ず全国に桜の木が咲くなんてありえないし、雪なんて振らない場所もある。

 成瀬の考えに思わず笑ってしまいそうになる。あいつってやっぱりすごいな。

「なぁ、咲」

「?」

「ずっと、好きだ」

 きっと未来なんて誰にも分からないし決めることもできない、ただ、ウラやオモテの存在のように俺たちも支え合って生きて行けばいいと思う。ダサい考えだと分かっている、だけど、今なんていうか、頭のいい考えだと思ってしまう。

 いや、決めつけはよくないな。

 

 完。

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時々彼女はオモテを見せる @sink2525

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