咲は裏を見せる
咲視点。
重たい瞼を無理やり上げて、目に入ってくる情報を脳で整理する。
ここは、保健室? 花の匂いが保健室を包み込み、太陽の光が部屋を明るくさせる。
私は、そうだ倒れたんだ。
さっきまでの記憶が頭の中で流れ込んでくる。それと同時に手にある違和感を感じた。
そっと、首を動かし手の方を見る。
「え?」
咲に右手を握っている結城が居た。
なんでいるの? それに何故か寝ているし。どういう状況なのこれ。
部屋に入ってくる光から関して多分夕方くらいだ。こんな時間まで私は寝ていたのか。
最近勉強ばかりで寝る時間が減っていた、だから、倒れたんだろうな。ところで、なんで結城は私の手を握っているの? 起きたばかりなのに心臓は跳ねていた。
やはり、冷静に考え事をしようとしても、右手が気になってしまう。
思ったより柔らかいな。好きな人の手は温もりを感じやすくて、いつまでも手を繋ぎたいと思ってしまう。けど、結城は私のことなんて好きじゃない。
どうしても認めたくない、だけど、今までの態度で好きになるはずがない。だから、もう諦めるしか選択はない。
結城の手が微かに動く。すると、結城は悪い夢をみたかのように体をびくりと動かし、体を起こす。
「咲」
結城は悲しい声で言う。結城の声は雪より透明で美しい声だった。
「咲、俺――」
結城視点。
「咲、俺」
起きたばかりなのに、口がよく動いてしまう。きっと、怖かったからだ、いつか咲が居なくなることが。だから、一秒でも一緒に居たいから口がよく走る。
眠っていた脳はずっと起きていて、あらゆる考えが浮かんでくる。
今、言うべきではないと分かっている、もっと、時と場を選ばべきだと分かっている。けど、言いたい。言ってしまいたい。
俺はずっと『咲が好きだと』言ってしまいたい。たとえ悲しい結末が待っていたとしても。
「ずっと、咲が好きだった」
脳はさっきより冷静な判断をさせてくれない、心は何も考えが浮かんでくれない、心臓は速くなっている。
「え?」
咲は目を開き、俺を見つめる。
咲の目は心を見透かしているような目だった。
言ってしまった。答えなんて判りきってるのに、なんで言ってしまったんだろう。
結城は視線を下に向ける
。
顔を見るのが怖い、多分、いや、絶対に嫌な顔をしている。
「結城顔上げてよ」
震える声で咲は言う。
俺はゆっくりと顔を上げる、悲しい結末を見るために。
「私もだよ」
ちょうど顔を上げ終わった時、嘘みたいな言葉が飛んでくる。その言葉は俺の人生の色を大きく変える言葉で、一生聞けることがないと思っていた言葉だった。
状況はつかめないのに、自然と涙が流れてしまう。
「でも、俺のこと嫌いじゃないの?」
俺は震える声で言う。
「違うよ、ずっと好きだったよ」
咲はニッコリと笑う。
「そういえばさ、図書館の時助けてくれてありがとね。私あの後男子グループから話を聞いたんだ」
まるで、真実を知っているよな口調で咲は言う。
「本当にありがとね」
「う、うん」
嬉しさのあまり、言葉がみつからない。
「でね、クリスマスイブは本当にごめん。あの日怖かったの、結城は多分私のことなんて好きじゃないし、大学に進学したら遠距離になってしまう。そんな考え事が浮かんで怖くなってしまったの」
「そうだったんだ」
泣くことで脳がいっぱいで、上手く処理ができない。でも、嫌われていなかったことだけが脳に入ってくる。
「本当にごめんなさい」
深く頭を下げる咲。
「大丈夫だよ、その、俺も逃げてばかりだったから」
「一緒だね!」
ニッコリと笑う咲は花より美しくて、綺麗で、尊くて、でも、そんな言葉たちが全部安っぽく思ってしまうほど笑顔だった。
「それでさ」
右手で髪を後ろに持っていき、顔を前に出す。
「キスする?」
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