未来は決まっていた

 咲視点。

 クリスマスイブ当日。

 大学に行くと決めたときから運命は決まっている。大学に行くのためには勉強だけじゃない、人間関係も壊さないといけない。

 私がもし今日行ってしまったら、悲しい結末が待っているのは絶対だ。

 もし、未来が分かっている確率の問題なんて解く必要がない、だから、これも同じみたいなもんだ思う。

 でも、今の私は逃げている。

 部屋に響くペンの走る音は静かになっていく。

 私が結城を好きになった理由は、あの日、あの図書館で私を守ってくれたから。でも、あの日は分からなかった。

 あの後、私はあの日図書館で勉強をしていた男子グループから話を聞いた。初めて聞いた時は驚いた。でも、それと同時になんで本当のことを話さないのか疑問に思ってしまった。

 けど、彼と話し機会が増えていく中で気付いた。

 彼は優しいと。そして、私は彼に恋をしたと。

 ペンの走る音は消え、鼓動の音が部屋を包み込む。

 いつか、結城に気付いてもらえるように接し方を変えた。優紀にだけ特別態度を取れば好きだと気付いてくれると思っていたら。

 でも、もし、結城に気付いて振られてしまったら、関係は終わってしまう。だから、今日は行かない。

 多分、この考えは逃げだと思う、だけど、だけど、どうしても怖い。

 いつしか、人は当たり前に恋をするようになった、でも、両想いの確率なんて問題はでない。だって、決まらないから。

 いくら解いても、いくら時間をかけても、解くことができない。

 脳に嘘の考えを浮かべさせる。そしたら、泣いている心が泣き止むと思って。

 本当は、大学に行く時から未来は決まっていた。私と結城は志望大学が全然違う、それなら必然的に遠距離になる、遠距離で恋愛なんて私には無理だよ。それに、結城は多分私のことなんて好きじゃない。だから、最初から未来は決まってるんだよ。

 紙にはペンで書いた文字が滲んでいた。インク漏れなんてしてないのに。

「今日行きたかった」

 悲しい声は誰にも届くことはなかった。部屋にはペンが走る音なんてなく、ただ、静かに時計を確認している咲の姿しかなかった。





 結城視点。

 年明けの学校は、騒がしかった。新年明けもありみんなテンションが高った。

 俺と咲を除いて。

 咲とはあの日から喋っていない、いや、喋ることが出来なかった。咲の背中から見えに壁を感じた。

 別に、俺はドタキャンされたことなんて怒っていない、ただ、悲しかった。

 もう、一緒に遊ぶ機会はないだろう。だからこそ、悲しかった。

 結局俺は未練たらたらのまま卒業する。そして、後悔するはずだ、『好き』というたった2文字が居なかったことに。

 結城は悲しそうに窓に視線を向ける。

「今日なんか暗い――」

 独り言を呟くと同時に悲鳴があがる。

 悲鳴の方に視線を向けると、咲が倒れていた。

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