咲はオモテを見せる

 咲は裏を見せる

 「えーと」

 先は首を傾けなが呟く。いつもとは違く怒っている様子もなかった。

「なんで咲が?」

「その、忘れ物取りに来たのよ」

 何故か視線を逸らしながら、あたふたと首を動かす。

「そうか」

 やばい、さっき言ったこと聞こえてるか。もし、好きってバレたら完全に縁を切られるよな、まだ許しも得てないし。

 けど、なんか今の咲は怒ってる様子を感じないんだよな。いつもは、冷たい視線なのに、今日はどこか優しい目で見てくる。

 咲は扉の前で固まったまま結城を見つめる。何か言いたそうな表情を浮かべながら。

「ねぇさっきの、好き、ってなに?」

 咲は目線を迷わせる。

「えーと、あれだ冬が好きだなって」

「ほんと?」

「うん」

 まさか、咲が好き、って言えるはずがない。言えたとしても俺には言える資格なんてないし、言ったとしても迷惑に決まっている。

 俺は否定したあと、ゆっくりと咲の顔を見ると、何故か寂しそうな顔をしていた。

 どうしてそんな顔をするんだ?

「そっか」

 忘れ物を取りに来たはずの咲は何故か階段の方に体を向ける。

 このままでいいのか? この先二人になる機会は無いかもしれない、それなのに、ここのまま何も言わないで終わるってもいいのか? いや、よくない、駄目だ。

 もっと、咲と話したい、もっと、咲と遊びたい。

「咲」

 結城の声は教室を包み、咲を包んだ。

「?」

 咲はゆっくりと首を傾ける。

「クリスマスイブに遊びに行かないか?」

 指で頬を掻き、照れているのを隠す。

「私と?」

 悲しい顔をしていた咲は、いつの間にか可愛い顔にもどっていた。

「うん」

「本当に私と?」

「うん、咲と、その、遊びたい」

 結城は指で頬を掻くのをやめ、頬が赤くなっているのを晒す。

「わかった! じゃ楽しみにしとくよ」

 咲は、嬉しいそうに笑い、可愛くて手を振る。

「ありがとね!」

 そう言い、咲は階段に体を向け歩き始める。

 どこか、悲しい結末が待っている背中だった。

 そして、クリスマスイブ、咲は来なかった。

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