冬の寒さは心の熱を溶かしてくれない

 咲との出会いは一年生になった時だった。

 初めての高校で初めての登校ってこともあって緊張していたが、この新崎咲は違った。

 凜とした姿で、綺麗、美人、って言う言葉すら安く感じてしまう。

 そんな、彼女は性格まで天使だった。

 最初は俺にも優しかったが、あの出来事を後に俺を多分嫌っている。

 その出来事は。

 ある日、咲と俺は図書委員だったため、図書館で仕事をしてた。

 その時だった、図書館は静かで、誰かが喋れば全部聞こえてしまう。だがそんなことお構いなしに、ある女子グループが大きな声で話していた。

 俺はその時、本を元の場所に戻すため、そのグループに近かった。咲は受付をしていた。

 別に盗み聞きするつもりはなかったんだ、けど、どうしても内容が頭に入ってくる。

 その、女子グループは、新崎咲に関する悪口を言っていた。

 別に俺は咲と特別仲が良かった訳ではないが、許せなかった。

 大人数で集まって、一人の陰口を言う。それが高校生になってまでやることか? それに、何も関係性がないのに悪口をよく言えるな。と思ってしまい、怒りが沸いていたんだ。

『咲ってさ、絶対心はブスだよね!』

『わかる~、絶対性格悪いよね』

 別に誰かを罵るのは、悪いとは言わない、好きじゃない人は必ずいるし、気に食わない人もいるだろう。けど、けど、絶対に聞こえる声で、しかも本人が居るのを分かって言うのは絶対に間違っている。

 だから、俺は注意したんだ。

『あのさ、悪口言うなら違う場所でやってくれないかな?』

『きゃー、この人が咲きの悪口言ってますよ』

 女子グループのリーダが大きな声で言う。

 その時、咲は声を聞き歩いて来る。

『私の悪口?』

『うん、この人が』

 咲は、結城の顔を見つめ、涙を浮かべる。

 あー、そっか人間て醜いんだ。

 その時知ったんだ、いくらいいことをしても必ず邪魔者が存在するって。いくら頑張っても伝わらない人が必ずいるって知ったんだ。

 咲は、結城の顔をただ見つめ、嘘でしょ、と声が出ない口で言う。

 俺は、言い訳をしようと思ったがやめた、だってもう遅いから、いくら言い訳をしてもこの状況を覆すのは絶対に無理だから。

 咲は、走って図書館を出る。

 そして、図書館に残ったのは騒いでる女子グルーグループと静かに勉強をしている男子グループと悲しみを殺している結城だけだった。

 それから、何度も彼女に謝った。けど、何度も無視をされた。これはもう仕方ないかと思っていた。

 何度も謝って、謝って、謝り続けた。けど、許しを得る機会はなかった。そっからずるずると月日が過ぎていき、3年性になってしまった。

 これが多分咲が俺を嫌っている理由だ。

 はぁー、あの時ちゃんと説明すれば、こんなに嫌われずに済んだのに、過去の俺は何してるんだよ。

 誰も居ない教室では悲しみにの匂いが漂っていた。

 外は雪が降り始めていた。

 もうそろそろ、卒業の季節か。

 このまま卒業するのは嫌だな、正直仲良くしたかった。もっと遊びたかった。

 ここ、最近特に咲は冷たい。

 今日だって、挨拶したら嫌っているような態度をとっていた。もう完全に嫌われているよな。

 俺もいっそ嫌いになれたら良いのに。

 でも、なんで嫌になれないんだろう、こんな扱いを受けているのに。

 多分後悔しているから嫌いになれないのかな? それとも、好きだから嫌いになれないのか? いつも考えてしまう。どうやった許してもらえるのか、どうやった普通な関係性に戻ることができるか。ずっと考えてしまう。

 今でも後悔している、いや、後悔はしていない、あの時した行動は良いことだ思っているけど、俺は咲と仲良くしたかった。

 冬の寒さは、どうしても心の熱を溶かしてくれない、いくら寒くてもどれだけ雪が降っても。

「多分、好きだな」

 理由なんて簡単だ、初めて会った時から咲の優しさに惚れたし、話していると時間を忘れてしまうほど夢中になってしまう咲の魅了に惚れてしまった。

「え?」

 その時、いつもと違う声色で美しい声が聞こえてきた。

 扉の前に立ち俺を、見つめている咲が立っていた。頭に白い雪を乗せ、赤く綺麗なマフラーを巻いている咲が。

 

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