時々彼女はオモテを見せる

@sink2525

最初の一歩

 蝉の声がうるさい季節。

 3年4組の教室には三名の生徒が残っていた。

「結城ってさ表と裏って同じだと思わない?」

 俺こと、沢城結城、俺の名前を呼んで、突然変なことを言ってきたのは親友の早川成瀬。

成瀬はコインを上に投げ手の甲でキャッチする。

「それってどういうこと?」

「つまりさ、表と裏は同じだってこと」

 言ってる意味が分かるか? 俺は分からない。表と裏が同じってそれは裏が無いってことだろ。

 成瀬は俺の目を見て、横を向くように目線を送る。

「?」

 横を見ると静かに寝ている神崎咲が居る。俺の横に座っていて、俺を嫌っている人だ。

 嫌われている理由はあの日起きた事件からだ。しかし、なんで成瀬は俺に見るよう指示してきたんだ?

「彼女がどうしたんだ?」

「同じだよ」

「同じって?」

「だから、同じなんだよ」

「いやいや、言ってる意味が分からないだが」

「はぁーほんと女心分かってないな」

 お前に言われたくない、と思ったが確かにそうかもしれないな。小さい頃からよく男友達としか遊んでいなかった。

 いや、小さい頃は遊んでいた。けど、小さい頃女子に『お前なんか嫌いだもんね』って言われて嫌な気持ちになったな。あれから女心が分からない。

 別に分からなくてもいいと思うけど。

「それで、結局何が言いたいんだ?」

「いいか? よく聞くんだ」

 成瀬はチラチラと彼女を見ながら言おうとする。

「実は」

「もぉぉぉ!」

 突然大きな声で叫ぶ咲。

 どうしたんだ、さっきまで寝ていたはずなのに。

 俺は咲の方を向く。

「あんまりじろじろ見ないでくれるかな!?」

 不満そうな声で咲は言う。またこれだよ、俺のことが嫌いなら無理に話さなくてもいいのに。でも、俺はこんな咲のことが――。

「もう」

 そう言い咲は立ち上がり、俺の椅子を軽く蹴って教室を出る。

「やっぱ、結城って女心分かってないな」

 成瀬は呆れ顔で結城を見つめる。

「何がだよ!」

「まぁ、ゆっくり頑張れよ」

 意味の分からないことを言って立ち上がる成瀬。

「帰るわ」

「お、おう」

 成瀬は教室を出て行く。

 

 咲は校門をくぐった後、手で顔を隠しながら歩いていた。

 なんで気付かないのよ、私は結構頑張ってますけど? 結城だけなのに表の私を見せてるのに、まったく鈍感なんだから。

 照れたり怒ったり、忙しい心に疲れを感じながら歩く。

 いつか気持ちに気付いてもらうと願って。

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