第4話 女神の特典は今は使わない
「他99%の土地は、全部、魔族が支配しておりますの」
「神々はどこ行った?!」
「アステイパレア大陸は捨て地ですので」
「魔族がいる世界に、RPGゲームが繋がるとは」
「これぞ、ベストマッチング」
「いかにも、人でなしの神々が言いそうなセリフだ。ビアーって、ギリシャ神話の女神だろ?武力と暴力が神格化されたもの」
「ササキさん、博識ぃ~」
「おだてたって何も出ない」
「ここを開発していだければそれで」
「どうして、そう開発にこだわる」
すると、ビアーが顔を赤らめた。
「気になる男性が魔族でぇ~。彼が困っているようなんですの」
「魔族が困りごと?どんな?」
「近親婚が進み、魔王の寿命が短くなっておりまして、新しい血を入れなければならないんですの」
「勇者の血?まてまて、ゲームをやり込むのは男だぞ。にゃろう系の勇者は大抵」
「心配には及びませんわ。魔王は代々女性ですので」
「勇者が魔王と結婚したがるかなあ?」
「そこを是非、ササキさんのお力で素敵な世界に」
「勇者がやってくる前に、私に、RPGの世界観を整えろと?」
「はい」
「いいかい?私はバイトでニャムコに働きに。え、まさか、上層部は最初からそのつもりで?」
「さっすが、ササキさん。ええ。そうなんです。クルルギ開発部長が余りにもポンコツすぎて、解任の動きがあって。その前に、ササキさんにバイトで復帰してもらおうと」
「君、ニャムコとも繋がっているのか?」
「女神ですから」
世界的に名の知られた企業で、そこの開発部長をやっていたのだから少しは会社内部のことを知ったつもりでいた。
だが、役員にならなければ見られない闇というものがあるらしい。
ササキは再び、あたりを見回す。
「つまり、クルルギの奴。ここまではやったと」
「はい。フィールドだけは部下に指示されて、作されました。雑な草っぱらを。元々、岩だらけの場所だったんです」
ササキは、ビアーが描いた地図を指先でなぞる。
「ここがスタート地点ってことか。奴がどこに行ったのか、女神でも解らないのか?」
「完璧な雲隠れです」
知らず知らずの内にため息が出る。
この状況にではない。
現役だったら、もう少し勘が働き回避できたであろう自分にだ。
「アスミの奴。今日、クルルギが失踪したことを知ったみたいな感じで言っていたけれど、常務ともども数日前から知っていたな?コワーキングスペースの異常さへの焦り具合が本物だとしたら、ゲーム異世界覇者が異世界と繋がってしまったことは知らなかったってことか」
所詮、彼も会社の捨て駒。
全てを知る立場にはない。
少し可哀想な気がする。
「あのう~。急にこんなことになってしまって、いきなりお一人での冒険は寂しいでしょう?」
「冒険って、開発だろ私の仕事は」
「こちらでの作業はご遠慮いただいております」
「ご遠慮?!じゃあ、どうすれば……って、私に冒険者になれって?40歳超えているだぞ?」
「レベルが上がるごとに、構築スキルも上がりますので~。これは、ササキさんだけに許されたユニークスキルでして」
「簡単に言うな!レベル上げってモンスターを倒すってことか?繰り返すが、私は40歳を」
ビアーがニンマリ笑った。
「ですので~。女神特典を用意しております」
「くだらないものだったら、ニャムコにサバ折りさせるからな」
「やだ、こわ~い。特典は、召喚術です。物、人、いずれも召喚可能。人の召喚は、レベル30にならないとできないんですが、チュートリアルということでお試しが出来ます」
「そりゃどうも」
「ですので~。冒険の旅の片腕になるような方を是非、召喚してください。では、どうぞ」
「今はいい」
「え?」
「チュートリアル特典に期限は無いんだろう?」
「少し考えるのはいい判断かもしれないですね」
「召喚する相手は既に決めている。だが、あちらにも準備があるだろうからね」
ササキは手提げ鞄から携帯を取り出し、ビアーが描いた地図をカメラに収めた。
牛丼を持って、草むらを歩き始める。
「ササキさん。やってくださるんですか?私の恋の成就のために」
「私の社会復帰のためだ」
この女神には口が裂けても言いたくないが、現役時代の頃のように頭が忙しく巡り始めたような気がする。
アドレナリンが出始めたようだ。
学生時代、その後の会社員時代は評価が全てだった。
それなりに器用で人間関係に波風立てずにひょうひょうと人生を生きてきたササキにとって評価されることは苦ではなかった。
むしろ価値基準だった。
それが、半年前、会社員で無くなったことで誰にも評価されなくなって自分を見失った。
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