第3話 新時代の福祉と多様性への道

 浮かせた資源を内政に回して社会を充実させた先には、さらに踏み込んだ改革への道が開けてくる。紗和はその一つとして、年金制度を廃止し、ベーシックインカム(BI)を導入するという大胆な提案をしている。月10万円を国民全員に給付することで、最低限の生活基盤を誰もが確保できるようになる。「働けば、さらに多くの収入を得られる」このシンプルな原則は、不公平感を和らげ、社会全体の効率性を高める。


 こうした改革が進むと、「お年寄りを見捨てるのか」という声が上がることもある。しかし、技術発展が常に世代間の摩擦を生んできたのは歴史が証明している。今を嘆く人々も、若かった頃は、そのさらに上の世代から同じような懸念や抵抗を受けていた。新しい時代に適応するための支援策は必要だが、そのために技術や仕組み自体を押さえつけることは、社会全体を停滞させるだけだ。


 特に、ニューロダイバーシティ(神経多様性)の考え方を取り入れることで、社会は「誰もが異なる脳の特性を持つ」という前提を受け入れられるようになる。知的、発達、精神面で多様な特性を持つ人々も、BIによって最低限の生活を保障され、必要な支援や教育、就労機会を得やすくなる。そうすれば、個々の違いが尊重され、単なる「弱者」や「少数派」とみなされることなく、多様な人材が活躍できる環境が整う。


 このような大きな制度改革は、当然ながら一朝一夕に実現するものではない。政治家や関係者、そして国民一人ひとりが意識を変え、時間をかけて社会的合意を築く必要がある。しかし、電子化による効率化や人件費削減などの「土台づくり」が進めば、こうした新たな試みのための財源や社会的リソースが生まれる。


 紗和の提案が目指すのは、閉塞感を打破し、「社会全体が持続可能な形で成長し続ける国」へと舵を切ることだ。教育、医療、子育て、不登校・いじめ対策、そしてベーシックインカムやニューロダイバーシティの実践を通じて、多様な個性が受け入れられ、全世代が共存できる環境を整える。それは、防衛費や外向きの国力だけでなく、内側から国の活力を支える「人間力」の育成でもある。


 こうした進化は、古い考えに囚われず、時代に合わない風習を淘汰し、新しい価値観を取り込む覚悟なしには成し得ない。変化を怖れず一歩を踏み出すことで、社会は停滞から抜け出し、多様性と福祉が共存する豊かな未来へと歩みを進めることができる。その先にあるのは、より包摂的で、公平で、誰もが自分らしく生きられる日本の新時代の姿なのである。

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紗和が、電子化と人件費の削減で経費を減らす取り組みを提案 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92

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