番外編:家庭科の授業 ~料理で繋がる八百万~
梁山泊神ノ学園のとある朝、教室に掲示されたスケジュールに「特別家庭科授業」と書かれた紙が貼り出されると、八百万の神の子供たちはざわめき始めた。
「家庭科って、あの人間界の料理とか作る授業か?」
雷の神の子・天斗が首をかしげる。
「そうみたいよ。楽しみね!」
風の神の子・風花はにこやかに答えるが、他の生徒たちの中には明らかに不安げな表情を浮かべている者もいた。
「僕たちにできるのかな……。」
襷も小さくつぶやいた。
そんな中、授業が始まるベルが鳴り響いた。
家庭科の先生登場
「みんな、席についてください!」
教室に入ってきたのは、家庭科の先生である豊穣の神・稲葉(いなば)先生だった。彼女は肩まで伸びた柔らかい髪と優しげな笑顔が印象的で、どこか母性を感じさせる雰囲気を持っていた。
「今日は人間界の代表的な家庭料理、『カレーライス』を作ります!」
「カレー?」
生徒たちの間にざわめきが広がる。
「人間たちが最も愛する料理の一つよ。材料を切って煮込むだけで簡単にできるから、初めてでも大丈夫!さぁ、みんなエプロンを着けて準備して!」
個性豊かな班分け
稲葉先生は生徒たちを6人ずつの班に分けた。襷の班には、風花、天斗、そして新たに登場した神々の子供たちが加わった。
• 火の神の子・焔(ほむら):気が強そうな少年だが、意外と繊細。
• 水の神の子・涼(りょう):冷静で几帳面な性格だが、ちょっとおっちょこちょい。
• 土の神の子・萌黄(もえぎ):のんびり屋でマイペースだが、力仕事は得意。
「さぁ、まずは材料を切るところから始めるわよ!」稲葉先生が声をかけると、各班で役割分担が始まった。
個性が炸裂する調理タイム
襷は風花と一緒に野菜を切る担当になったが、他のメンバーが早速トラブルを起こし始めた。
「おい!なんで玉ねぎを丸ごと鍋に入れるんだ!」
焔が涼に叫ぶ。
「え?皮付きの方が美味しいかと思って……。」
「そんなわけないだろ!」
一方で、萌黄は野菜を切るのではなく、鍋のそばでカレー粉の香りを楽しんでいた。
「この香り、癒されるなぁ……。」
「萌黄、手伝って!」
襷が苦笑いしながら声をかけると、ようやく手を動かし始めた。
試行錯誤の末に
天斗は豪快に具材を炒め始めるが、火の強さが調整できずに焦がしそうになる。
「おい、焔!お前が火の神なんだから助けてくれよ!」
「仕方ないな……こうやるんだ!」
焔が手を差し出すと、炎の勢いがちょうど良くなり、天斗が安堵の表情を見せた。
一方、襷と風花のコンビは安定した作業で次々と具材を鍋に投入していく。涼も最後には手際よく水を加え、煮込み作業が始まった。
「みんな、なんだかんだで形になってきたね!」
襷の声に班のメンバーが微笑み合う。
試食と先生たちの評価
ようやくカレーが完成し、生徒たちは各自の班で作った料理を試食することになった。
「これ……意外と美味しい!」
萌黄が目を輝かせると、天斗も大きく頷いた。
「俺たち、やればできるじゃねえか!」
稲葉先生が全体を見渡して笑顔で言った。
「みんな、最初は不安そうだったけど、ちゃんと協力して素敵なカレーができたわね!」
その様子を見ていた猿田彦校長や雷神先生、風神先生も微笑みを浮かべていた。
「これで彼らも少しずつ『自分の役割』を学んでいるようだな。」
「ええ、成長しているのがよくわかりますね。」
襷の「大切にする心」
試食が終わり、後片付けをしている最中、襷はメンバーに向かって言った。
「料理を作るって、ただ食べるためだけじゃなくて、みんなと一緒に楽しむためのものなんだね。」
風花が優しく微笑んだ。
「そうね。みんなで力を合わせて作ったからこそ、美味しかったんだと思う。」
襷は、改めて仲間たちの存在の大切さを感じた。
「これからも、みんなで何かを作る時間を大切にしていきたいな。」
班のみんなが頷き、温かな空気がその場を包み込んだ。
1日の終わり
その日の夜、襷は寮のベッドに横たわりながら、今日の出来事を思い出していた。
「僕は、人間界でもこんな風に、みんなと何かを作り上げる時間を作れるかな……。」
優しい満足感に包まれながら、襷はそっと目を閉じた。
八百万の神の子供たちと共に過ごした梁山泊神ノ学園の日々は、彼にとってまた一つ忘れられない思い出となったのだった。
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