第二章:友情のはじまり
最初の授業が終わり、襷は廊下で一人肩を落としていた。緊張で何を話したのかほとんど覚えていない。ただ、クラスの視線の冷たさや、雷鳴天斗のような強気な生徒の態度に気持ちが沈んでいた。
「やっぱり、僕なんかここに来るべきじゃなかったんじゃないか……」
襷が自分を責めていると、後ろから優しい声がかけられた。
「神野君、大丈夫?」
振り返るとそこに立っていたのは小野塚風花だった。ふわりと風が吹いたような爽やかな雰囲気の彼女が、心配そうに襷を見つめている。
「ありがとう……でも、やっぱり僕、ここに馴染めそうにないかも……」
「そんなことないよ。」
風花は笑顔で首を振った。
「私たちだって、最初はみんな不安だった。特にこの学校の試験を受けて入学したとき、みんな自分の力が十分じゃないと思っていたんだから。」
「……君たちも?」
「もちろん。八百万の神だって、最初から完璧じゃないのよ。」
風花の言葉に、襷は少し気持ちが軽くなった。
「そうだ、ちょっと案内してあげる。」
風花は襷の手を取り、校庭のほうへ連れ出した。
神々の校庭
校庭は広々としており、ところどころで生徒たちが集まっている。空中に浮かぶリングで戦っている者や、水辺で魚を操っている者まで、まるで神話の一場面のような光景だ。
「ここはみんなが自由に能力を練習したり、遊んだりする場所よ。」
「能力……?」
襷が驚きつつ風花を見つめると、彼女は軽く手を振りながら微笑んだ。
「ほら、見てて。」
風花は目を閉じ、軽く息を吸い込むと、手のひらを空に向けて掲げた。すると、風がふわりと巻き起こり、彼女の周囲を優しく包み込む。
「……すごい。」
「これが私の力、風を操る能力よ。でも、まだまだ未熟なの。」
襷は初めて見る異世界の力に、ただただ感嘆するばかりだった。
意外な助け舟
そのとき、後ろから乱暴な声が響いた。
「おい、風花! 人間なんか甘やかしてどうするんだよ。」
振り返ると、そこには雷鳴天斗が腕を組んで立っていた。その表情はどこか挑発的だ。
「天斗、やめてよ。」
「やめるわけないだろ。こいつが本当にここにいる価値があるのか、試してみるべきだ。」
天斗は襷に近づき、低い声で言った。
「おい、神野襷。俺と勝負しろ。」
「……勝負?」
「そうだ、能力がないなら、少しは度胸を見せてみろよ。」
突然の挑発に、襷は唖然とするばかりだった。だが、その様子を黙って見ていた別の生徒が、冷静な声で割って入った。
「それ以上、人間を困らせるのはやめろ。」
月詠皓月が天斗をじっと睨みつける。その威厳ある眼差しに、天斗も不満そうに舌打ちをしながら引き下がった。
「……チッ、まあいい。すぐに泣いて逃げ出すのがオチだろ。」
天斗が去っていくと、皓月は襷に向き直った。
「気にするな。あいつは口が悪いだけで、根は悪いやつじゃない。」
皓月の冷静な態度に、襷は少しだけ安心した。
「……ありがとう。」
初めての「仲間」
その後も風花と皓月が襷のそばにいてくれたおかげで、彼は少しずつ学校の雰囲気に慣れ始めた。クラスの中には、襷に興味を示し話しかけてくる神々も現れた。
「お前、人間っていうけど、どんなとこ住んでんだ?」
「ねえねえ、人間ってどうしてあんなに忙しそうにしてるの?」
襷は最初こそ戸惑いながらも、少しずつ自分の言葉で答えようと努力していた。
それを見守っていた風花が、小さく拍手をして言った。
「ほら、ちゃんと馴染めてるじゃない!」
その言葉に、襷は初めて笑顔を見せた。
「……ありがとう。」
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