第一章(続き):神々の子供たちとの出会い

「……唯一の人間生徒?」

襷はその言葉に困惑したまま立ち尽くしていた。


威厳ある男性――梁山泊神ノ学園の校長だという**猿田彦大樹(さるたひこ たいき)**は、襷の肩をポンと叩いた。


「その通りだ、神野襷。君は人間代表として、ここで八百万の神々の子供たちと一緒に学ぶのだよ。」

「いや、ちょっと待ってください! そんな学校、聞いたこともないんですけど……。」

「そうだろうとも。我が校は、神界にしか存在しないのだからな。」


襷の頭の中はパニックだった。目の前に広がる異世界の光景、そして「神々の学校」という言葉。だが、校長の落ち着いた口調には妙な説得力があり、襷は否応なく話を聞き続けることになる。


「さて、そろそろ生徒たちに紹介しよう。」

猿田彦校長は手を振り、周囲に集まっていた神々の子供たちを促した。


「皆、こちらが人間代表の神野襷だ。これから3年間、共に学ぶ仲間として歓迎してやれ。」


ざわざわと囁き声が広がる。襷はその視線を感じながらも、怯えたように身を縮めた。


「おい、ほんとに人間か? 弱そうだな。」

大きな体の男子生徒が襷をじろじろ見ながら、バカにしたように笑う。彼は雷神の子供である雷鳴天斗(らいめい たかと)。


「ちょっとやめなさいよ、怖がってるじゃない。」

間に入ったのは、柔らかな風のように優しい雰囲気を纏う女子生徒、**小野塚風花(おのづか ふうか)**だった。


「初対面でそんなこと言うなんて、ほんとデリカシーないんだから。」

襷は彼女の言葉に少しだけほっとしたが、それでも完全に安心することはできなかった。


「ふん、人間なんてどうせ俺たちには敵わないんだ。」

天斗は不満そうに肩をすくめた。


「やめろ、天斗。」

低く響く声が一同を静かにさせた。その声の主は、銀髪に鋭い目を持つ美しい男子生徒、**月詠皓月(つくよみ こうげつ)**だった。


「校長が歓迎すると言っているのなら、それに従うべきだ。」

「……わかったよ。」

天斗は渋々態度を引っ込めたが、どこか不満げだった。


「襷君、大丈夫?」

風花が心配そうに声をかけると、襷は小さくうなずいた。


「……ありがとう。」

ぎこちないながらも、襷は少しだけ勇気を出して口を開いた。


初めての授業


その日の午後、襷は初めての授業に参加することになった。教室に入ると、既に神々の子供たちが席についている。


「今日は『人間学』の授業だ。」

教壇に立ったのは、美しい容姿と艶やかな笑みを持つ女神先生、**天鈿女(あめのうずめ)**だった。


「さて、今日は人間代表である神野襷君にも協力してもらうわね。」

突然名指しされ、襷は慌てて立ち上がる。


「き、協力って……何をすれば?」

「簡単よ。あなたの生活や感情について、ここにいる皆に話してちょうだい。」


「えっ!?」

襷は驚きのあまり声を上げた。人前で話すのは得意ではないし、ましてや神々の前で自分のことを語るなんて考えたこともない。


「早くしろよ、人間。」

天斗が冷たく促す。襷は緊張で体が固まってしまい、言葉が出てこない。


「襷君、落ち着いて。深呼吸して。」

風花が小声で助け舟を出してくれた。襷は彼女の優しい声に少しだけ安心し、勇気を振り絞った。


「えっと……僕は神野襷、普通の人間です。受験に失敗して……でも、ここに来て、何か変わるかもしれないと思っています。」


襷の言葉に、教室はしんと静まり返った。一瞬の沈黙の後、天鈿女先生が優しく微笑む。


「素敵ね。これからたくさんのことを学んで、もっと自分を好きになれるといいわね。」


襷の言葉は少しぎこちないながらも、どこか温かい空気を生んだ。それは、神々の子供たちの心にも少しずつ響き始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る