第3話 恐れていた事

 その日は突然訪れた。


「リーズレットよ。ボトムス王国のジョージ王子より縁談の話が出ている。明日ジョージ王子が直々に我がオルグレン城へ来場される。失礼のないようにしなさい」

「はい……」


 しょんぼりする私の傍らで、お姉様が一歩踏み出しお父様へと迫った。

「ちょっとお待ちなさって。ボトムス王国って言ったら最近勢力を伸ばしている西の大国ではありませんか? なぜそのような大国の王子がこの子と? わたくしが先ではございませんか?」

 お父様ははぁっとため息を吐いた。

「マーガレットよ。そのような戯言を決してジョージ王子に申すではないぞ。かの王国は現在周辺諸国を侵略、制圧して領土を増やしている。我が国こそ武力にも乏しい小国ながら、先方は侵略ではなく友好を深めたいと言っておられるのだ。先方がリーズレットを指名した以上、我が国はそれに従うまで」

「で、ですが、わたくし……納得がいきませんわ……!」

 お姉様はそう言葉を吐き捨てると、プリプリと怒りながら部屋から出ていってしまった。


「はぁ、マーガレットのわがままには付き合いきれん」

 呆れるお父様。ここで黙って聞いていたお兄様がすっと立ち上がった。

「陛下。念の為私もマーガレットに釘を刺してきます」

「おぉ、アルバートよ。是非に頼む」


 そしてお兄様も部屋から出ていくと、私もお父様から自分の部屋に戻るよう言われ、しょんぼりしながらトボトボ廊下へと出た。


 はぁ、ついに恐れていた事が起こってしまった。お姉様の不満通り、私もお姉様が先だと思っていた。でも、現実には私が先。しかも西の大国であるボトムス王国の王子。この国の未来のためにも破談は許されない。はぁ、気が重い……。


 トボトボと廊下を歩いていると、ある部屋の戸が少しだけ開いており、会話が少しだけ聞こえてきてしまった。


「ほ、本当ですの? お兄様!」

 お姉様の声だ。お兄様、早速ここでお姉様へ警告しているんだ。そう思い立ち去ろうとしたが、次のお兄様の言葉に思わず足を止めてしまった。

「あぁ、ジョージ王子は士官学校の2つ下の後輩だったのだが、女性の誘惑にはかなり弱いらしい。毎日のように国内の貴族の令嬢に迫られては婚約しそうになっていたそうだ」

「しそうになっていた……でも、実際に婚約まではいっていないのですよね」

「それは国王の許可が下りなかったからだろう。今回は国王が国を選び、ジョージ王子が自分でリーズレットを選んだ。ならば、同じ国のお前に心変わりをしても、なんら問題はなかろう」

「流石お兄様ですわ!」

「では、今から言う作戦通りに……」


 あれ、お兄様、お姉様に釘を刺すどころか私からジョージ王子を横取りする手伝いをしているんだけれど……。

 そっか。お兄様は、お姉様の味方なんだ。お姉様と争っているつもりは全くないのだけれど、なぜか少しだけ、心が傷んだ。なぜかお兄様は、私の味方をしてくれているんじゃないかって、勝手に思っていたから……。


 それでも、私にもその作戦は都合が良く、その作戦が上手くいくよう行動をしてみようと思ったのであった。

 だって、私は今でもラリー様のことが……。

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初恋の騎士様の事が忘れられないまま、帝国の公爵様に嫁ぐことになりました るあか @picho

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