第2話 騎士様の行方

 その後ラリー様がどうしているのかは分からない。お姉様の近衛兵になったはずだけど、お姉様の側にいる騎士様は皆、ラリー様のお声ではないのだ。

 お父様やお父様の側近さんに「ラリー」という騎士様の事を尋ねても、“そんな名前の騎士はこの城にはいない”って、そう言われてしまう。

 彼は私に偽名を名乗ったのか。今となっては確認する術もないし、騎士のお人形も毎回彼が持ってきて彼が保管していたので、私の手元にはなく、手掛かりもない。

 一応お姉様の様子をうかがってみたけど、その騎士のお人形はお姉様も持っていないようだった。


 城中の使用人さんたちに聞きまわっていると、それを見かねたお兄様に「くどいぞ」と怒られてしまい、それから行方を追うのは諦めてしまった。

 ちなみにお兄様は私とは年が10も離れていて、当時は18歳。当時でも私からはとても大人に見えて、威厳があって、少し怖くもあった。


⸺⸺


 あれから12年経った今でも、ラリー様という騎士様の事を忘れた事はない。あの低くて優しい声を、今でも毎日頭の中で再生している。


 もう一度だけでいいから会いたい。会って、当時毎日遊んでくれた事のお礼が言いたい。まぁ、あれから12年も経っているからラリー様は忘れてしまっているかもしれないけど……。


 お母様のお墓にお花をお供えして、今日も墓石に話しかける。

「お母様、お母様はお父様に恋をしていましたか? 私は……きっと将来の旦那様に恋をする事は出来ないと思います。だって今でも、ラリー様の事が好きなのです。忘れられないのです。でももう私も20になりました。嫁ぎ先が決まる前にラリー様の事が忘れられたらいいのに……無理そうです。お母様、リズはどうしたらいいのでしょうか……」


「お前はまだそんな事を言っていたのか」

「っ!」

 慌てて振り返ると、お供え用のお花を持ったお兄様が呆れ顔でこちらを見ていた。

「お兄様……! あの……ごめんなさい……」

「次は俺の番だ。終わったのならどいてくれ」

「あ、はい……。すみません……!」

 慌てて脇に避け、お母様の墓石とお兄様に一礼をしてその場を去った。


 少し離れた場所まで走ると、ふぅっと肩を撫で下ろす。

 お兄様は30歳になられてさらに威厳に溢れ、お父様の後を継がれる人物として相応しいお方になった。今でもまだ少し怖い。決して悪い方ではないのだけれど、お話しするのはいつも少し緊張する。

 それでもお兄様は、お母様の墓石でよくお会いする。行く度に私の供えたお花とは別のものがお供えしてある。恐らくお兄様がお供えしているものだ。威厳があって少し怖いけれど、そういった優しい面も持ち合わせているお兄様を、私は尊敬していた。

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