初恋の騎士様の事が忘れられないまま、帝国の公爵様に嫁ぐことになりました
るあか
第1話 初恋の騎士様
⸺⸺あれは12年前、私がまだ8つの時だった。
「人形姫様ごめんなさい。人形王子様が迷子になってしまいました」
私は城の中庭でお姫様の人形と向かい合うようにそれを抱き上げ、ペコリと頭を下げる。そして、少し声のトーンを上げて人形姫がしゃべっている風を演じた。
『まぁ、リズ王女、それは本当ですか。あぁ、人形王子様、あなたはどこへ行ってしまわれたのでしょう』
本当は、人形王子がどこへ行ってしまったのかを知っている。
だって、2つ上のお姉様がバルコニーで私の人形王子と遊んでいるのを見つけてしまったから。
お姉様もちゃんとお姫様と王子様の人形をもらっていて、2人の王子様がお姫様を取り合っている様子を演じて遊んでいた。その後お姉様に返してって言ったけど、落ちていたのを拾ったんだからもう自分の物だと言って返してもらえなかった。部屋に大事に飾っていたから落ちているなんてことはないはずだけど。
「人形姫様、寂しい思いをさせて本当にごめんなさい……」
悲しくなってシュンとうつむいたその時、鎧のガシャン、ガシャンという音が近付いてくるのを感じて思わず顔を上げた。
頭のてっぺんから足の先まで鎧に包まれた騎士様が私の目の前で片膝を突いていた。
彼は片腕を背中に隠していてその腕をひゅっと前に出すと、馬に
『リーズレット王女、人形姫、宜しければわたくしめをお側に置いてくださいませ。騎士として、貴方様方をお守り致します』
その瞬間、落ち込んでいたはずの私の心は一気にときめいた。
「わぁ、騎士様のお人形……! ぜひ、お願いします! では、早速皆でピクニックに行きましょう」
「はい、お供致します」
その騎士様は日が暮れるまで人形遊びに付き合ってくれて、毎日一緒に遊んでくれた。
人形騎士と騎士様の呼び方が似ていたので騎士様の名を尋ねると、彼は“ラリー”と名乗ってくれた。
ラリー様のお顔は分からなかったけれど、その低く優しいトーンのお声を聞くと、私の胸はいつも高鳴った。
⸺⸺私は、生まれて初めての恋をしている事に気付いた。
ラリー様は騎士様をしているくらいだからずっと年上のはず。私の事は子守りくらいに思っていると思う。だから、頑張って気持ちを抑えていた。
それでも、ある時ふと、本音が漏れてしまった。
「私は大きくなってお嫁にいくなら、ラリー様のところへお嫁にいきたいです……」
「リーズレット王女……! わたくしめには身に余るお言葉でございます……」
ラリー様のその困った様な口調を聞いて、思わず本音が漏れてしまっていた事にその時初めて気が付いたのである。
「あっ、あのっ、変な事を言ってしまってごめんなさい! これはその、たとえば、の話です……! ラリー様のような、優しいお方……っていう意味です!」
「リーズレット王女。勿体なきお言葉をありがとうございます」
ラリー様はゆっくりと丁寧にお辞儀をしてくれた。その後のやり取りはテンパってしまって、何を話したのかも自分でも良く覚えていない。
それでもこれからもずっとお側に居てくれると思っていたのに、彼はそれから10日足らずで異動になってしまった。
異動先は、お姉様の近衛兵だった。
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