第9話 ジークの素性
⸺⸺グランシア王国 王都グランディール⸺⸺
傾斜のある土地にたくさんの建物が立ち並んでおり、セルフィス王国の城下町なんて比べ物にならないくらいに町が広がっていた。
ラグーンたちドラゴンは『先に帰っている』と言ってどこかに飛び去っていってしまったので、私たちは徒歩でその賑やかな町の通りを進んでいた。
⸺⸺割とすぐだった。
歩き始めてすぐにすれ違う人々が皆「ジークハルト殿下おかえりなさい!」とか「ジークハルト殿下こんにちは!」って声をかけてきていた。
「ジークハルト殿下……?」
私が恐る恐る尋ねると、ジークは「それなんだけどなぁ……」と苦笑いしていた。
そして彼は逃げるようにドーナツを売っているワゴンへと行き、小さな紙袋を持って帰ってくる。
「ほい、このドーナツ美味いんだよ」
彼はそう言って出来たてのいい匂いのするドーナツを私へと差し出した。
「うわぁ、美味しそう……! いただきます」
一口食べるとなんとも言えない甘さが口いっぱいに広がり思わず「ん~!」と声が出る。
そんな私を見て彼はふぅっと一息吐くと、観念したように口を開いた。
「俺、第二王子なんだ……このグランシア王国の」
「第二ってことは……お兄さんがいるんだ」
私はやっぱりか、と思いつつドーナツを頬張る。
「そう、5つ上の兄貴がいて……って、気にするとこそこか!?」
「あれ? そこじゃなかった?」
目をパチクリさせている彼を見て私は首を傾げた。
「いや、良いんだけどさ……ユアは、嫌じゃないか?」
「えっと……何が?」
「王子……トラウマなんじゃねぇかと思って……」
ジークの声のトーンがだんだんと弱くなっていく。
「もしかしてイアン王子の事?」
「ん……」
「あはははは!」
私はツボに入ってしまってお腹を抱えて笑った。そんな私を見てジークは「何で……!?」と混乱しているようだった。
私はなんとか笑いをこらえて言葉を絞り出す。
「イアン王子って……同じ王子でもジークとは違いすぎるよ……! まさかその事気にして言い出せなかったの?」
「おうよ……」
「気、使わせてごめんね。でも、王子って聞いてもイアン王子と重ねたりとかは一切なかったよ。むしろ、みんなに親しげに話しかけられてて、良い王子様なんだな~って、思ったよ?」
私がそう言って微笑みかけると、ジークは顔を真っ赤にして「そか、ならいい……」とそっぽを向いた。
そしてドーナツも食べ終わる頃、一軒家ほどの大きさの漆喰の建物へと到着する。
「ここが、俺ら『飛竜の翼』のアジトだ」
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