第6話 真っ裸

 私たちは堂々と酒場を出て、王子と兵士の群がる門へと向かった。

 ジークが何を思い付いたのかは良く分かんないけど、無事逃げられるのだろうかという不安と同時に、何をしてくれるんだろうという期待もあった。


「あっ、エレノア様……!」

 私たちにいち早く気付いた兵士がこちらを指差しそう叫ぶ。

「なるほど、あの兵士はこの距離でもお嬢さんの魔力が分かる、と……」

 ジークは何やらぶつぶつ言っている。


「エレノア! そんなところにいたのか。お前ら、彼女を捕まえてきてくれたのか、褒めてやるぞ。後で褒美を取らせよう」

 王子は安堵の表情を浮かべ、次第にいつものドヤ顔へと戻っていく。しかし、次のジークの一言で王子の表情は一変した。


「なんか勘違いしてんじゃねぇの、エロ王子。もう愛人とのセックスはいいのか?」

「はっ……!?」

 王子は青冷めながら顔を引きつらせる。同時に兵士らも皆青ざめたのをジークは見逃さなかった。

「ふぅん、お城の兵士さんらは皆知ってて黙ってたんだな。ま、そうだよな。下手に口出すと消されそうだしな。けど、町の皆さんは知らないようだから、俺が分かりやすくしといてやるよ」


 シュンッと何かが飛んでいく音が聞こえたかと思うと、目の前のジークのローブがふわっとなびく。

 一瞬見えた彼のローブの中で、彼の両手が腰に着けていた双剣を納刀していた。


 同時に、周りで騒ぎを見ていた民衆がわーっと騒がしくなる。それは王子の身に付けていた衣服が粉々に引き裂かれてパサパサっと地面に落ちたためであった。


⸺⸺王子は、たくさんの民衆の前ですっぽんぽんのフルチンになっていた。


「なっ、ななななな……!?」

 王子は顔を真っ赤にして慌ててお股を両手で覆った。


 ちょっと待って、王子が真っ裸になった事よりも、このジークって人、今この一瞬で双剣を抜いて斬撃で器用に王子の服だけ斬ったの!?


 そんな私の疑問を余所に、ジークはマイペースに話を進める。

「あれぇ? フルチンはマズイかと思って俺パンツは残したはずなんだけどな~。あっ、セックスの途中で慌てて出てきたから履くの忘れたのか! ドンマイ! つーか、隠すの“そこ”で良いのか? その婚約者とは違う“魔力痕まりょくこん”のキスマークを隠したほうが良いんじゃね?」


「ほ、本当だ……エレノア様の魔力とは違うぞ……」

 民衆の一人がそうポツンと呟く。

「おっ、そこのおっさん、良い“魔力感知”持ってんじゃねぇの。ちなみにその魔力痕、有名ななんちゃら卿のご令嬢のものらしいぞ」


「貴族の令嬢と浮気してたのか?」

「エレノア様と婚約しておきながら……!」

 民衆が一気に騒がしくなる。すると、ジークはより一層声を大きく張り上げた。


「そのクソ王子は別の女とセックスしてるところを婚約者のエレノア様に見つかって、あろう事か『少しでも口外すれば婚約破棄に国外追放する』って彼女を脅したんだ! そいつは今まで何度も“婚約破棄”という言葉をチラつかせて、両親に娘を殴らせるのを楽しんでいた! 彼女は耐え切れなくなって婚約破棄と国外追放を受け入れて国を出て行こうとしてんだ。俺は、彼女の護衛だ。これ以上彼女が国を出て行くのを拒むってんなら俺が相手になってやる。かかってこいよ」


 ジークのローブが再びなびき、彼からゾクゾクとしたものを感じた。赤色のものすごい覇気を放っている。

『あれは熟練の戦士だけが使える身体能力を底上げするものだよ。つまり彼は本気って事だね』

 黒猫ちゃん、解説ありがとう。


 門の前に立ちはだかっていた兵士らは皆サッと道を開け、ジークは私の手を取り堂々とその花道を歩いた。

 そして彼は王子とのすれ違いざまに低く唸るようにこう言った。

「その隠してるもんちょん切らなかっただけ良かったと思えよクソ野郎」


 その瞬間王子は恐怖が限界突破したのか、泡吹いて仰向けに倒れた。


 そして私は、生まれて初めて城下町の外へと踏み出したのである。

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