第5話 作戦会議
「……本気で言っているのか。この国の王子の婚約者なのだろう?」
テーブルに座っているローブの片割れが低い男の声でそう言葉を発した。
「そんな肩書きは後回しだろ。声をかけたのは俺だ。このまま見捨てては行けねぇ」
「だがしかし……」
「まぁまぁ、落ち着いてよセドリック。僕もジークに賛成。反対するならそんな意気地なしセドリックは見捨てて行っちゃうよ?」
もう片方のローブが高めの男の声で無邪気にそう言うと、ジークと呼ばれた私に声をかけた彼も「違いねぇ」とクスクス笑っていた。
「はぁ……全く。言い出したら聞かん男だからな、お前は」
セドリックと呼ばれた男は諦めたようにそう言って立ち上がると、料理の会計を済ませに行った。
「悪いな、お嬢さん。アイツも悪気があるんじゃねぇんだ。気ぃ悪くしたんなら俺が謝る」
ジークがそう言って頭を下げたので、私は慌ててそれを制した。
「いえいえ! 彼が当たり前の反応かと思いますので……。あの、ありがとうございます……これからどうしようかと思っていたので……」
「あー、それは無事にこの町から出られたらにしてくれ。さて、どうしたもんかね……」
うーんと腕組みをするジーク。
「僕のローブ貸す?」
「んー、お嬢さん。気配消せるか?」
「えっ、気配を……消す……?」
私はポカンとする。
「あー、無理そうだな。なら、レイが貸したところであんま意味はねぇぞ。絶対バレる」
「そだね……魔力すごいもんね……むしろ今まで見つからなかったのが奇跡だよね……」
レイと呼ばれた男はズーンと凹む。あれ、そうなんだ……私の魔力ってそんなに目立つんだ……。
「……で、どうするんだ」
セドリックが会計を終えて戻ってくるなりジークを問い詰めた。
「んー、まだ考え中。なぁ、お嬢さん、あの王子の弱みってなんかねぇのか? もうそれで大混乱を起こしてその隙に出ていくのが手っ取り早いんだが……」
「お前、騒ぎを起こすなとあれだけ言われているだろう!?」
セドリックが口を挟む。
「けど、良い方法なんて思い付かねぇし。顔も隠してるし大丈夫だろ」
ジークは不貞腐れたようにそう返した。
「くっ……」
「あはは、僕、ジークのそういうとこ好き」
「あ、あの……弱みというか……今回の逃げることになった原因なんですが……」
「おう、なになに?」
私は彼らに王子がアドリーヌと愛を重ねている事を語った。
⸺⸺
「マジか、あの王子クソ野郎だな……」
ジークは窓腰に王子を睨み付けた。
「婚約破棄詐欺かぁ、とんでもかまってちゃんだね」
レイもだるそうに言葉を発する。そんな彼らの言葉に、私は気付けば大粒の涙を流していた。
「うおっ、だ、大丈夫か!?」
私の涙を見てあたふたするジーク。
「ごめんなさい……この事言えたの……初めてだったので……ごめんなさい……」
そう言って必死に涙を拭うが、1度溢れ出してしまったらなかなか止まってはくれない。
「そっか、辛かったね……」
と、レイ。
「ジーク、今回の事は目をつぶってやる。だからサッサと何か考えろ」
セドリックはバツが悪そうにそう言った。
「あぁ、今の話聞いてあのクソ野郎をもう一度よく観察してみたんだが……。俺、すげぇ良い事思い付いちまった」
ジークのフードから少しだけ見える口元が、意地悪そうに微笑んでいた。
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