青春
Shota
空は青かった
澄んだように青い空がどこまでも広がっていた。
文字通り雲一つない青空である。この空に包まれるとこの世界には自分だけしかいないような錯覚に陥る。
下から吹き上げる春の上昇気流が身を包みこみ、全身から熱を奪っていっている。だが、そんなことも気にならないほどに空は青かった。
どこを見渡したとしてもあたり一面には澄んだ青空が広がっていた。
この青空に自分一人、世界から隔絶されてしまったような錯覚に陥る。
この景色の中で自分の苦しみも悩みも喜びも怒りも、一体どれほどちっぽけなものかと馬鹿らしくなった。
何も無い、何もかもがちっぽけで儚いものなのだ。
この春の季節、皆はどのように過ごしているだろうか。
学校では新しい生活に心躍らせて過ごしているか、あるいはこれからの未来を想像して苦悩に満ちているのだろうか。
大学試験に受かって、新しい環境に胸を踊らせ、あるいは憂鬱になりながら、慣れない作業に翻弄されているのだろうか。
あるいは、今日は休みで大切な誰かと桜でも見ているのだろうか。
あるいは、今日もいつもと変わらず家に引き籠もっている人もいるのだろうか。
あるいは・・・
あるいは・・・
たくさんの「あるいは」が浮かぶがそのどれもを内包しても余りあるほどにこの青空はどこまでも広がっていた。
今日は発売日なのに朝早くから用事があるから帰ってきたら買おうと思っていた新作の小説・・・
来年から受験生なのだから勉強しなさいといつもいつもしつこくガミガミ言ってきた学歴コンプレックスを抱えた毒親・・・
来年の大会、一丸となって最後に全国に行こうと誓いあったチームメイトたち・・・
そのすべてを内包しても余りあるほどに、
この青空はどこまでもどこまでも広がっていた。
空はどこまでも広がっており絶対届かないものとよく言われている。
でも違うと思うんだ・・・
空はどこまでもどこにでも存在しているんだ。
たとえ、どれだけ身をかがめたとしても、地中に潜ったとしても空はどこにでも存在している。そうこの青さは何者でもない。何かではないんだ。空は空以外の何者でもなくただそこにあるんだ。そんなことを考えてしまうぐらい、この青空はどこまでもどこまでもどこまでも広がっていた。
空が青い、ただそれだけで自分は世界から隔絶された、今なら比喩でもなく本気でそう思える。
ここには自分しかいない、この場所では本当に自分は自分として自由なのだと思うことが初めてできる。
そう、自由、自由なんだ。この空はきっと僕にとっての自由そのものなのだ。この青さ、これこそ僕の、紛れもない自由なのだ。
この青空のもとなら自分達はきっとちっぽけで儚い存在なのだと思い知らされる。でも、それでいい、いやむしろそれでいいんだ。
この青空に自分が何かではなく自分でいることを肯定してもらえたような、そんなふうに感じれるから・・・
イカロスが空に焦がれ太陽に焼かれ地に落ちたように、自分はこの空の青さに恋い焦がれ、そして地に落ちるだろう。
それでも構わない、そう思えるほどにこの青空はどこまでもどこまでも広がっていた。
相変わらず、下から上昇気流が吹き続けており、鼻から空気を吸い込むとただ空の匂いがした。
そっと目を閉じる。相変わらずヒューと吹き続ける風の音、それによって吹かれ続けている服のパタパタと音を立てていた。けれど、他の音は何も聞こえない。ここにいるのは自分だけ、自分しかいない。
下を見るといつもと変わらない街の風景が広がっていた。
その街の桜に包まれた風景が自分を現実と空の境目に引きとどめていた。
あぁ、もうすぐ自分は死ぬだろう。
空の青さに憧れ恋焦がれ、地に落ちそして死ぬ。
しかし、不思議と怖さはなかった。
恋い焦がれたあの青空はすぐ傍にあったのだ。
ならば、死を恐れる理由などどこにもない。
空が自分を苦しみも悲しみも喜びも恐怖も飲み込んでいくのがかんじられる。
それを飲み込んでもなおくすまず澄んだこの青空がどこまでもどこまでもどこまでもどこまでも広がっていた。
そう、広がっていたのだ、この青空は。たとえどこにいても、どこに行ったとしてもこのゆりかごの中にいる限りこの青空はいつでも、どこにでも、どこまでも続いていていたのだ。
現実が近づいてきたが、それもまた自分には青空に見えた。
空はどこにでもある。自分の中にも外にも。
この果てしなく続いている青空に至って僕は初めて気づくことができた。
自分は最初から空にいたのだと。
自分の
”青春”と
作者からのお願い
空、青空を青春に置き換えて始めから読んでください
青春 Shota @syouki0905
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