第9怪 真実は目に映らない

 たくさんの教室が並ぶ、複雑で入り組んだ第一校舎を捜索してから、結構な時間が流れた。


 お日様は暮れつつあり、後少しで下校時間だ。


 それまでに何とかして多彩な小人を見付けたい。


「うふふふふ……」

「気色悪い笑い方をするなっ! 気持ち悪いぞ、お前っ!」

「すみません。ふっふふふ……」


 ぼくは注意されても笑い続けていた。というか、笑いが止まらない。


 年真先輩がぼくと腕を組んでくれたんだ、これが笑わずにいられるものか。


 腕を組まれながら、年真先輩の顔を見ると、頬がほんのり赤く染まっていた。


 しかめっ面を浮かべているけど、どこか照れ臭そうだ。ぼくの胸は大きく拍動する。


「……このまま時間が止まって欲しいです」

「もうすぐ下校時間だからな。多彩な小人探しも終わっちまう。そう思うのは当然だ」


 ――いや、そうじゃなくて。


 ツッコミを入れたいところだけど我慢した。


「いったい多彩な小人はどこにいるんだ!」


 年真先輩が苛立ち始める。


「心杜は多彩な小人の事を『真実は目に映らない。多彩な小人に会いたければ、その先を突き進め。果てから果てが彼の世界入り口だ』と言ってたな。あれはいったいどういう意味だったんだ!」

「もしかしたら、目を塞げは、多彩な小人と出会えたりして」

「……目を塞ぐ、か。『真実は目に映らない』と言ってたしな。一応試してみるか」


 ぼくと年真先輩は、目を塞ぎながら、校舎内を捜索し続ける。


 ……。


 …………。


 ………………。


「「……………………」」


 しかし、一向に多彩な小人とは出会えない。


「……目を塞ぐだけじゃ駄目なのか。それじゃ、いったいどうしたら……」

「いてっ! 八方塞がりですね……」


 ぼくは目を塞いでいた為に、廊下の行き止まりで、体をぶつけてしまう。年真先輩もぼくと一緒のようで、肩を擦っていた。


 ――ここにきて、年真先輩は深く考え出した。


 ぼくもそれに倣って深く考えることにした。


 多彩な小人と出会うのに、目を塞ぐのが駄目となると、ぼくにはもう思い付くことがない。


 でも、諦めることだけは絶対にしない。


 多彩な小人から笑花を救うんだ!


「八雲学園は巨大な校舎だけど、心杜の言う、とてつもなく多彩な家屋なんてどこにあるんだ……。いくら小人の家屋と言えど、そんなにたくさんは造れないぞ。この学園のどこにそんなスペースがあるんだ。もしかして……、校舎内じゃなくて、校舎外なのか……。いや、そんなまさかだよな……」

「おい、大名」


 頭をフル回転させていると、年真先輩に呼び掛けられた。


「何ですか?」

「……一階の昇降口に行くぞ!」

「へっ? いいですけど、何しに? まさか、多彩な小人は本当に校舎外に!?」

「いいから、わたしの後に付いて来い!」


 年真先輩とぼくは、足早に昇降口へと向かった。


 昇降口は帰宅する生徒があちこちに見受けられ、とても騒がしく、落ち着かない雰囲気だった。


 ぼくはその状況に、落ち着かなさを感じる。


「……年真先輩、昇降口に来ましたけど、これからどうするんですか?」


 すると彼女は、指で上を示した。


「次は最上階だ! 屋上に行くぞ!」

「えっ!? 屋上は立ち入り禁止ですよ!?」


 ぼくの静止を利かず、年真先輩は最上階へと走り出す。その後を、ぼくは渋々ながらも付いて行く。


 やがて最上階に着くと、年真先輩は屋上へと向かう。


「年真先輩! さっきも言いましたけど、屋上は立ち入り禁止で、鍵が掛かってますよ!」

「関係ない。鍵なんて掛かってないからな」


 彼女が何を言っているのかまったく分からない。


 ぼくはただ、年真先輩の後を足早に付いて行く。屋上の入り口まではあと少しだ。


「――いいか、大名? これはわたしの賭けだ。だが、賭けは恐らく当たる。多彩な小人は姿を現すぞ」

「はぁ……?」


 ぼくは気のない返答をし、屋上の入り口へと目をやる。


 屋上付近は人気がまったくなく、且つ寒々しい光景が広がっていた。


 屋上の入り口は鍵が掛かっているだけでなく、教室の机でバリケードが築き上げられていた。


 そこに年真先輩は無理やり押し入り、築き上げられていた机を後ろに放り投げる。


「ちょっ、年真先輩! 危ないですよ!」


 そんなぼくの静止を利かず、彼女は全ての机を後ろに放り投げた。


「さぁ、わたしに付いて来い――」


 年真先輩は屋上の扉へと手を掛ける。


 もう片方の手は、ぼくの左手を取っていた。


 ……どきどきが止まらない。


 今日ぼくは、年真先輩ととても親し気だ。


 あなたに付いて来いと言われたら、ぼくはどこまでだって付いて行きます!


 ――そして、


 屋上への扉は、ゆっくりと開かれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る